Dramatization in English
インプット(主にReading)からアウトプット(主にSpeaking)へ
Peer Interactionを経て、即興的なDramatization in Englishへ
即興表現の場数を踏んで、英語を話し始めるきっかけと自信をつかむ
「アウトプットのためにはインプットが最重要」という認識を経験的に得る
想像力や思考力に裏打ちされた英語コミュニケーション能力を自ら育む
文責:清水 豊子
※ 動画・左は、「即興的創作劇」のプレゼンテーション風景(5月と6月)
動画・中は、「トークとリハーサル」の授業風景(7月と10月)
動画・右は、「初めての即興」のプレゼンテーション風景(11月と1月)
*動画は授業の雰囲気を伝えるものです。頁内容とのリンクは基本的にありません
*動画をご覧いただくにはQuickTimePlayerが必要です。
英語科教材研究 I (ドラマ・音声)(シラバス)
(英語科必修科目、4単位、1年次生(14名)対象、2006年通期実施)
清水豊子 (千葉大学教育学部教授)
随時、授業者あるいは学生が選ぶReading教材が使われる。年度によっては学生が選ぶ映画などのListening教材が使われることもある。
新入生は中学・高校ではもっぱら英語の知識を詰め込むインプット型の授業を受けてきたと考えられます。そこでこの授業では、小グループによるDramatization in Englishの手法を導入し、新入生が6年間に蓄積した英語力を引き出してSpeaking Skillを高めることができるようなアウトプット型英語教育の新たな方法論の開拓・構築に努めています。この授業のDramatization in Englishとは、Reading体験からアイディアを引き出し、それを具体化・ドラマ化して、最終的にはクラスの前でクリエイティブな英語劇を即興的なパフォーマンスにより披露することです。それにより、新入生が英語の即興表現を重視したSpeaking体験を積み重ねて、想像力や思考力に裏打ちされた英語コミュニケーション能力を育むことを目指します。この授業は、それを可能にするべく、「インプットからアウトプットへ」 を大きなテーマとして、英語の4技能(Reading, Listening, Speaking, & Writing Skills)を統合的に使う機会をたっぷり提供しています。
実際の授業では、毎回、新入生にまずは自力でインプット型課題(主にReading)に取り組むよう促し、続いてペアかグループの他者と協同でアウトプット型課題(主にSpeaking)を遂行するよう指示します。アウトプット型課題には、日本語によるトークの過程=Peer Interactionと、英語による即興的パフォーマンス=Performanceが含まれます。日本語で話し合うのは、英語の即興表現に備えて、読んだテキストの理解を深化・共有し、そのテキストを下敷きにしてどんなドラマを創るか、どんな場面展開・役割設定にするか(Dramatization in English)を話し合うためです。
本授業ではひたすら人間的コミュニケーションを重視します。毎回の授業は、学生が最終段階の英語によるパフォーマンスをイメージすることで学習意欲をそそられ、かつ諸課題の積極的な思索者・表現者になることで確実に授業に巻き込まれるように設計され、結果的に、学生一人ひとりが主体的に「英語による自己表現力とコミュニケーション能力を高めること」を目指しています。
※ インプットとは、Reading + Listening (Reception)
アウトプットとは、Writing + Speaking (Production)
新たなアウトプット型英語教授法の開拓・構築を目指して、これまで8年間、英語教育の実践的理論を支えに授業の方法論を模索してきました。実際には、新入生が中学・高校で培った英語力で英語を話す機会を持てるようにするため、毎授業の流れをどう設計し即興的なドラマをどう導入したらいいか、試行錯誤を続けました。その結果、Dramatizationへ誘う方法論的手続きは徐々に定着してきました。一方、そのためにどんなReading教材を選んだらいいかの試行錯誤は続いています。学生の読む意欲と読解力は年々低下しつつあり、Reading教材は、Dramatization(Speaking Output)に応用しやすいだけでなく、学生が自力で読める程度に興味深く、理解可能なものを選ぶ必要があるという思いを強くしています。
なお、「授業の実際」欄に収録した「学生の声」が示唆するように、最初のうちは戸惑う受講生もいるようですが、受講生全体の本授業への参加度は概ね良く、眼を輝かして諸課題に取り組む学生も少なくなく、それが今まで続いたゆえんです。ともかく、これは第三者からみれば非常に変わった授業であるため、なぜこういう授業を行うのかを示すため、以下に実践的思索の経緯やその理論的背景に触れたいと考えます。
この授業は英語教育に関する授業で、8年前のカリキュラム改革によって生まれました。筆者(英米文学担当)は門外漢ながら引き受け、ともかくもできるだけ今の学生たちのニーズを受け止めて、彼らの即興的な英語の発話を引き出すような方法論を模索することにしました。
この発想は突然生まれたわけではなく、土台があります。まず、英米の言語芸術作品のより深い理解・鑑賞を実現し、異文化の多様な側面を学べるようにするために、2,3年次生が実際に英米演劇の名作を上演するというパフォーマンスへ導く授業を20年の間続けました。また、1992年の春休みに、‘Oral English through Drama’ Courseと題して、この授業の原型となるような実験的セッションを試みたことがあります。1,2年次生のボランティアを募って、ロールプレイや即興劇を中心とした英語漬けの連続講習(5日間にわたって毎日5時間の講習中は英語しか使えない)を企画・実践しました(参考文献2.参照)。応募した学生が途中で止めてしまうのではないかと懸念したのですが、幸いにして、この頃の学生は学習意欲も自力学習力も持ち合わせていて、全員が最後まで課題に意欲的に取り組みました。その結果、「こういう授業があるといい」と感想を述べた学生も出ました。(ただし、十数年経った現在では、学生もすっかり変わり、同じレベルのやり方は通じないと思われます。)こうしたアウトプット型教育の長年の経験を生かせるのではないかと考えて、この新しい授業を引き受けたのです。
英語科の新入生はまずもって、「英語で話せるようになりたい」という願望を持っています。英語科には、そうした要望に応えるため、外人教師などによる英語漬けの授業が1〜3年次にいくつか用意されています。しかし2,3年次に進級しても、「英語科に入ったのに、英語が話せるようにならない」と嘆いて、その依存的・短絡的な願望からほとんど前へ進めない学生も少なくありません。実際、彼らの本音は、「Readingは嫌い」、「Writingはめんどくさい」、「Speakingだけを教えてほしい」、「やりたいことだけをやりたいのに、余計な授業をとらされる」といった声に垣間見られます。授業内の学生の反応や個別インタビューから、ここ十年余りの間にこうした実に受身的な学生の存在が顕著になりました。彼らをここまで他力本願にしてしまったものは何なのか、学業に本気で取り組む姿勢を忘れた学生に対して一体何ができるのか、と授業者に突きつけられた問いは尽きません。
自力で学ぶ力がここまで弱くなった大学生の未形成な精神構造を知るにつけても、こうした難問と直面せざるを得ません。日本語の表現力さえ未熟なまま放置して、2,3年次になって「英語が話せるようにならない」と言っているようでは手遅れなので、1年次のうちになんとかしなければなりません。このように英語学習の常識さえ通じなくなった新入生の導入教育(初年次教育)で、どうしたら彼らに考え方の安易さに気づかせ、「アウトプット(Speaking & Writing)を可能にするには、その土台となるインプット(Reading & Listening)にしっかり取り組むことが最重要課題」であり、「Speakingを可能にするには、確かなWriting 力を育むことも必須課題」だというメッセージを彼らの心に植えつけることができるのか? 今や教師の意識と学生の意識の落差は限りなく深くなり、伝統的な教師主導の授業ではもはや、こうした難問は解きほぐせないでしょうし、まして彼らを早い時期にスピーキング・コンプレックスともいうべき強い思い込みから解き放つこともできないでしょう。
こういう次第で、まずは彼らの自主学習の意欲を引き出さなければ大学教育は始まらないのではないかと考えて、本授業では英語科の導入教育として、まず何よりも主体的な英語学習への動機づけを重視することにしました。そこで、教師主導の英語学習の理屈から入るのではなく、学生のニーズを受け止め、ドラマの手法を大胆に導入して彼らが実際の生活場面で即興的に英語を使える機会をたっぷり提供しています。しかも、彼らが関心をもって自力で読めるような教材を選び、できる限り抵抗感なく授業の流れに乗って課題と取り組めるような授業を設計するよう心掛けています。
この授業の根底には、新入生が「即興性に富む本物のSpeaking の難しさと楽しさ」を体験的に知って、自己表現力やコミュニケーション能力を高めるだけでなく、英語学習の本質と多様性に気づいて、自主的な英語学習も自力でオーガナイズできるようになり、大学生にふさわしい主体性を早期に確立するきっかけにしてほしい、という授業者の思いがあります。
英語教育の実践的理論はいろいろありますが、時代により流行があるようです。一時代前の「反復練習」で英文を頭に叩きこむAudio Lingual Method、あるいは「文法力」で英文テキストを解析・翻訳していくGrammar Translation Methodなどを経て、この四半世紀は「実際の場面で英語が使えるコミュニケーション能力」に重点を置いたCommunicative Approachが世界的にも主流となり、「文法的な正確さ」より「発話の流暢さ」が重視されています。日本の英語教科書もコミュニケーションを意識したものに変わりました。しかし、中学生や高校生の英語コミュニケーション能力が伸びたという報告はなく、すでに述べたように、英語科に入ってくる大学生でも「使える英語」を修得していないのが現実です。そればかりか、昨今の大学生は文法にも弱くなり、やや深みのある文章(例えば、ユーモアやウィット程度)を読むことも苦手になりました。そのためか、最近は、Communicative Approachに疑問を呈する動きがあり、Focus on Formという考え方が脚光を浴びているようです。振り子が揺り戻されて、文法力が見直されているのでしょうか。
この授業は、「英語で話せるようになりたい」という新入生の願いを受け止めて、彼らに英語で話すきっかけと自信を与え、彼らの英語コミュニケーション能力を伸ばすことを目指しているため、基本的にはCommunicative Approachの考え方が役に立ちました。ただ、このアプローチは実践的理論(理念)に過ぎず、教師なら誰でも使えるような具体的な方法(英語教授法)があるわけではありません。詰まるところ、即興性を原理とする、ゲーム、ロールプレイ、即興劇、シミュレーションといった演劇的技法を応用するしか手はないようです。ここでは即興劇(Improvised drama / Improvisation)を中心とするアウトプット型教育の方法論を試行錯誤しながら模索し続けました。その間、とりわけこのアプローチの論陣を張る次の二人の専門家筋の論議には大いに支えられました(下線は筆者)。
1.Language uses which do not require improvisation are really demanding language-like behaviour rather than true linguistic behaviour, for improvisation is a characteristic of any human interaction. / Communicative teaching should involve a profound change in the methodology. (C.J. Brumfit, The Communicative Approach to Language Teaching, 1979)
1.でBrumfitは、「即興性(Improvisation)は人間の相互作用の特徴であるがゆえに、即興性を要しない言語活動は擬似的な言語行動に過ぎず、コミュニケーション重視の英語教育には方法論において全面的な変革が必要だ」と論じています。つまり、本物の言語行動には即興性が欠かせないということです。英語科新入生の願いである「英語で話せるようになる」ということは、準備なしのノン・スクリプトの状態で、その場で(on the spot)、即座に(impromptu)、状況に適した英語表現が口を衝いて出てくるということです。新入生はまさに、こうした即興性を必要とする本物の言語行動を習得したいと願っているわけです。
しかし、これは彼らが考えるほど簡単なことではなく、そのきっかけを与えるだけにしても、懸念材料も少なくありません。第一に、アウトプット(Speaking & Writing)の土台となるインプット(Reading & Listening)が充分に定着しているかどうか。第二に、日本の学校では擬似的な言語行動(例えば、会話を暗記して人前で演ずる、原稿に基づいてスピーチをする)も、即興性を重視した本物の言語行動も経験する機会はほとんど提供されていないので、こうした授業がすぐに機能するのかどうか。第三に、学生の話し言葉における即興力もここ十数年でかなり低下しているのではないか。例えば、十数年前に、英語による3分間スピーチで自己紹介を行うよう促すと、準備時間をほとんどとらなくても、学生の大半は3分間くらいはなんとかスピーチを続けることができたのですが、最近は、準備時間を多少とっても、3分前後も話し続ける学生は少なく、大半の学生が1,2分以内で話すことがなくなってしまいます。このように懸念材料も多いのですが、英語科新入生の場合、大学までの6年間に一応基本的なインプットは定着していると考えられ、また、グループ創作のドラマによるSpeaking体験には興味深そうに参加する傾向があるため、Brumfitの論述に従って、即興性を重視した方法論を模索し、方法論の徹底的な変革を行うことに躊躇しませんでした。
2.It is not enough to teach learners how to manipulate the structures of the foreign language. They must also develop strategies for relating the structures to their communicative functions in real situations and real time. / We must therefore provide learners with ample opportunities to use the language themselves for communicative purposes. (W. Littlewood, Communicative Language Teaching, 1981)
2.におけるLittlewoodの指摘も、まことにもっともなことです。教える側は、学習者に外国語の構文の使い方を教えるだけで満足しがちですが、それだけでは聞き話す能力(Oracy = skill in self-expression and ability to communicate freely with others by word of mouth, Chambers Concise Dictionary, 1985)は育たないため、学習者が既習の構文を本当の状況や時間に合わせて使えるようにするには、コミュニケーションのために外国語を使う機会をたっぷり提供しなければならないというわけです。
通年の授業において毎回のように即興的ドラマやロールプレイを導入し、新入生が既習の英語の知識を実際の場面で試みに使ってみるアウトプットの機会を提供し続けることができたのは、こうした実践的理論に支えられたからです。
この授業でも毎週、本ネットに掲載中の他の授業(言語コミュニケーション教育、英米文学セミナー)と同一の教授モデル〈Input ⇔ Interaction ⇔ Output〉を使います。それは動機づけのためであるだけでなく、アウトプット型教育とはいえ、毎回インプットを土台にしてインターラクションを経るほうが、ドラマのテーマや英語表現の幅が広がり、豊かなアウトプットを生み出す可能性が高まるからです。この授業では、インプットとは主に、「英文テキストを自力で読み考える過程」、インターラクションとは、「日本語による同輩との小グループトークで、(1)テキストの理解を深め、(2)ドラマの大枠(テーマ、場面、役割)を設定し、(3)どんな英語劇になるか試みに演じてみる過程」、アウトプットとは、「クラスの前で、グループ(ペア)の成員が協力し、話し合いで決めた大枠に沿って即興的に英語の創作ドラマを演ずる過程」を意味します。毎回、3つの過程は一直線に進むわけではなく、螺旋状に進んでいきます。なお、この授業はいわゆる英語漬けではなく、最初と最後の活動(英文テキストの自力講読とチームで演ずる即興劇)では英語が使われますが、その中間の小グループトーク=Peer Interactionではテキストの理解からドラマの構想まで日本語で納得のいくまで話し合うことが可能になっています。
なお、「英文テキストを自力で読み考える」インプットの過程は授業の大切な出発点になります。アウトプット型教育においてもインプットを重視するのは、即興的な発話を誘発するには想像力を喚起するしっかりとした基盤が必要だからです。学生が自宅でこれに真剣に取り組んでくるかどうかで、後の2つの過程(小グループトークとアウトプット)が意味あるものになるかどうかが決まります。このような授業を試みればみるほど、英語教育の実践的理論家S.D. Krashenが主張するように、言語修得に必要不可欠な要因は「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」であり、アウトプットにはインプットが最重要課題だと痛感させられます。つまり、学習者に質の高いReading やListeningの言語材料を豊富に提供し、確かな理解へ誘うことが最も大切なのです。現実には、日本語の本もあまり読んだことがなく、英語の本など全く読んだことがない新入生が自力で理解できて、しかも楽しめるReading教材を探すことは至難の業ですが…。
なお、インプット派のKrashenが主張するように、総じて学生の学習意欲も理解度も高い時代には、確かに、インプット型教育だけでも、読み書く能力(Literacy)中心の高度な言語修得が可能でした。ところが、意欲や学力の低下が云々される近年では、「理解可能なインプット」の範囲が狭まった上に、インプット型教育だけでは良質の学びが身につかなくなりました。想像力が乏しく、自力で読み考える力、自力で問題を発見する力などの低下も顕著なためです。そこで、インプット派に異論を唱えるアウトプット派M. Swainの実践的理論も意味を持つことになります。彼が指摘するように、学生たちは今やインプットだけではいい加減な理解で済ます傾向があり、アウトプット体験を経て初めて、自分の英語表現力の種々の問題に気づいたり、言語的知識をより深く点検するようになって、言語の理解、すなわちインプットを深めていくと考えられます。
この授業はこうした実践的理論を背景に、アウトプットにも積極的な教育的価値を見出して、英語教育上の一番の盲点であり日本人が苦手とするSpeakingへの道を拓き、豊かなコミュニケーション力を伴った英語修得へ導こうという教育的試みとなっています。
第I段階 / 第II段階 / 第III段階この8年間、授業内容は共通する部分もありますが毎年異なっています。試行錯誤が続いているためだけでなく、卒論生や修論生の実践的研究を組み込んで新入生の関心領域を広げようとする狙いもあります。Dramatizationへ誘う方法論的手続きは定着してきていて、2006年度には、Prepared ImprovisationからUnprepared Improvisationを目指す形をとっています。ここでは、2006年度の授業を中心に、授業の内容・方法を具体的に解説します。なお、毎回の授業の流れはワークシート上に設計されていて、授業はそれに沿って進められ、学生への指示もそれに沿って出されます。
学生たちは「英語を話したい」と思ってはいても、いざ「英語で話す」機会が与えられると、自信のなさや恥ずかしさで引っ込み思案になりがちです。そこで、こういう授業の場合、気軽に参加できて不安を軽減するウォーミング・アップ活動が欠かせません。うまくいけばやる気を喚起することもできます。この活動には学生一人ひとりが確実に英語で話す機会がもてるペアワークが適しています。2006年度には第1回授業で次のようなコミュニケーション活動を行いました。
◆相互インタビューから「他者紹介の2分間スピーチ」へ/ペアワーク(第1回)
挨拶と授業案内を配布し、その内容に簡潔に触れた後、ワークシートに沿って次のように授業を進めます。
- クラス全員でペアをつくり、交互に「高校生活について」英語でインタビューしながら、各自、自由にワークシート上にメモをとる 〈対人課題〉
- 各自、インタビューから得た情報を使ってパートナーをどう紹介するか、ワークシートを使ってスピーチの案を練る 〈対自課題〉
- 発表順を決め、順番に「他者紹介の2分間スピーチ」の発表を行う 〈対人課題〉
- 各自、ワークシート上の問に沿って、他者評価と自己評価を試みる 〈対自課題〉
- コミュニケーション活動だけで終わらず、Focus on Form の意識を育てるため、翌週までにスピーチ(Speaking)をレポート用紙に書き出し推敲してくること(Writing)を指示
⇒〔授業者ひと言〕
このウォームアップは、授業者が体調を崩したため、急遽ティーチングアシスタント(大学院生)に進行を依頼した。前期の授業日程が決まっていて、休むわけにいかなかった。これまでに3,4回は行ったことのある活動だったので、進行の仕方がわかるワークシートがあれば、学生たちに任せてもうまくいくであろうと見当がついた。このコミュニケーション活動の良い点は、Speakingに自信がない学生も、高校生活のインタビューというこのようなペアワークなら、broken Englishを使って気軽に質疑応答ができるため、教室は通常すぐに活気づき、どの学生も初めての英語のスピーチをこなせること。実際、当日のワークシートを見ると、文章や文法に問題やミスがあっても、新入生が既習の英語表現を使って懸命にコミュニケーションを行った形跡が読みとれた。
ウォームアップ活動は授業への関心度と参加意欲を高めるのが主目的なため、学生が自然に巻き込まれ、内容もあって楽しかったと思えるようなコミュニケーション活動を企画します。他によく使うのは、次のような活動です(2005年度から)。
◆既成のテキストに創作を加えた「新スキットの発表」/ペアワーク(他年度の授業例)
授業案内・ウォームアップを配布してから、次のような流れで授業を進めます。
- この授業の目的・方法・評価などについて解説する
- 軽快な会話が弾むスキット(ミニドラマ)の英文テキストを紹介し、その場で内容理解を促す
- クラス全員を無作為にペアに分け、スキットについてのトークとリハーサルを勧める。その際、「この寸劇をドラマティックに締めくくるために、2人のアイディアで最終行の後に台詞を2,3創作して付け加えましょう。その上で、発表に備えリハーサルをしてください」と指示する
- 7組のペアが順に、新スキットのプレゼンテーションを行う
- 各自、全ペアのプレゼンテーションをふり返って、ワークシートに答える。
⇒〔授業者ひと言〕
この年度には、ノンテキストの即興劇に備えるため、簡潔で軽快な英文テキストをインプットしてからアウトプット(Speaking)する機会を用意した。このペア・トークは常に教室に活気や笑いをもたらし、プレゼンテーション時もしばしば、クラスから大きな反応(どよめきや笑い)を誘い出す。創作部分のユーモアやアイディアに共感したり、演者の予期せぬ英語表現に驚いたりするからだ。もちろん、近年ではメッセージが伝わらずクラスの反応が少ない発表が続く場合もある。このスキットは大学生であればすぐに内容把握できる程度のもので、「学生の声」からわかるように、大方の学生が緊張しつつも創作スキットのプレゼンテーションを楽しんでいる。他方、あまりゆとりがない学生もいる。英語科に英語力不足の学生がいるほか、学部改革により英語力を問わず一部学生を受け入れているためであろうか。このようなアウトプット型の授業を潤滑に機能させるには、学生たちの同等レベルの英語力が必須条件なのだが…。
このようなウォームアップ活動を終えると、通常はすぐに第II段階へ進みますが、2006年度の場合、実験的観点から、本格的な授業を前に、第2回にSpeech on Self-introduction(90分)、第3回にReading Comprehension Test(50分)を行いました。ワークシートを再点検して一年をふり返ってみると、初回のウォームアップとそれに続くこの2回の授業があったからこそ、新入生の学習意欲を最後まで比較的高い状態に維持できたのではないかと推察しています。
◆自己紹介の3分間スピーチ/個別ワーク(第2回)
自己紹介の3分間スピーチ(テーマ指定)は、全授業の最初と最後でSpeaking力がどう変わるかをみるため、受講生全員にトライしてもらったものです。準備時間を30分とりましたが、実際のスピーチに移ると、3分間を使い切る学生は少なく、1,2分以内で終わってしまう学生が大半を占めました。しかも、個性やユーモアはあまり感じられず、「英語を話したい」とか「英語の先生になりたい」といったありきたりな内容が多いためか、クラスの反応は低調でした。ただ、学生間の相互評価では、互いに長所をみようとする傾向がみられました。スピーチ体験後の「学生の声」には、自分の英語力不足への気づき、あるいはこれからのやる気が満ち溢れていました。自由記述であるにもかかわらず、ほぼ皆が自分の言葉で学習意欲を表明するのはめずらしいことです。このように、自己表現力は未開拓ですが、彼らを本授業に上首尾に導入できたようです。なお、Focus on Form の意識を育てるため、このスピーチも翌週までにレポート用紙に書き出し推敲してくること(Writing)を指示しました。
◆読解力テストなど/個別ワーク(第3回)
第3回の授業は、(1)解説(10分)、(2)Reading Comprehension Test(50分)、(3)第II段階への導入(30分)から成り立っています。(1)解説では、今後の課題は「Reading Inputから Speaking Outputへ」であること、精読(Intensive Reading)と多読(Extensive Reading)は違うこと、を伝えます。インプットの大切さは “Comprehensible input has been the last resort of the English teaching profession”という言葉を引用して説明し、精読と多読の違いはごく基本的な事柄ながら、近頃は知らない学生がほとんどなので、わかりやすく説明しておきます。その後、(2)Reading Comprehension Testでは、50分以内にイギリスの短編小説(Waiting by Stan Barstow, 10頁)を読みながら20の日本語の設問に答えるよう指示します。テキストは辞書を使わなくても速読できるものを選び、設問も初めての多読を支援しテキスト理解を促進するようなものにしました。授業は今までのコミュニケーションへ誘う開放的・親和的な雰囲気から一転して、驚くほど懸命に読解に取り組む真剣な雰囲気へ変わりました。この試みは受講生の読解力を把握するために行ったものですが、結果的に、これ以後の自力多読を真摯に行う態度を養う場になったと考えられます。(3)第II段階への導入とは、以下に詳述されているように、多読(Free Voluntary Reading=Pleasure Reading)の前に、学生たちが好きな本を選ぶことです。
純粋な即興で思いつくままに会話をするのがUnprepared Improvisation、多少の準備をしてから会話をするのがPrepared Improvisationです。純粋な即興はプロの俳優が母語でトライしても限界は案外すぐに訪れると言われています。まして、日本人学生が即興で英会話をするとなると、想像力や即興力に加えて英語力の三拍子が揃っていなければうまくいきません。かつては心理学における心理劇Psychodramaの手法を使って、学生たちが共有する問題をテーマに、状況と役割を決めただけで、思いつくままのドラマを英語で演ずるよう促し、うまくいくこともありました。しかし不確定な要因が多く、その手法は定着しませんでした。そこで、まずは学生たちが「英語でインプットしたものを介して仲間と充分に日本語で話し合った後に、クラスの前で英語の即興的創作劇(アウトプット)を発表する体験」をたっぷり積めるような授業をデザインすることが多くなっています。2006年度では、その成り行きを見て、「準備過程なしの本物の即興表現にトライする体験」も積めるように誘っています。
Prepared Improvisationのインプット教材としては、これまで様々なものを使ってきました。授業者が選ぶ寓話や短編小説、学生たちが選ぶ英字新聞の記事など、Reading教材が大半です。ただし、卒論生や修論生が選んだポップスの英詩、あるいは『タイタニック号』や『ロミオとジュリエット』の名作映画といったListening教材を使うこともありました。Reading教材としては、ドラマ化(アウトプット)へつなげやすいというだけでなく、学生が自力でも意欲的に読めるようなレベルの教材を選ぶようにします。これはなかなかむずかしい作業で、常に迷いが伴います。2006年度には初めて、名作をリライトしたPenguin Readersを使いました。院生の実践的研究、Free Voluntary Reading through Peer Interactionを授業に組み込んだため、院生が持ち込んだものです。授業者としてはリライトされたテキストを使うことに抵抗感が強かったのですが、事前アンケートで、新入生の大半が日本語の本を読む習慣もなく、英語の本も読んだ経験がないことがわかっていましたので、彼らが自力で読み通せる「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」としてやさしい英語表現で書き直された本もいいかもしれないと考え直し、かつSpeakingの土台にはそうしたものも適切であろうと判断しました。
◆Reading Input → Peer Interaction → Speaking Output(前期第4〜13回)
Reading Input/個別ワーク
前期の「Reading InputからSpeaking Output へ」の試みは3ラウンドにわたりました。各ラウンドで使ったReading教材、Penguin Readers(Level 3 か4)は次の通りです。各ラウンドで学生が選ぶテキストを4種類に絞ったのは、たくさん取り揃えることは不可能という事情のほかに、後にコミュニケーション活動を行うため3,4人の小グループをつくる必要があったからです。
第1ラウンド: Frankenstein, An Ideal Husband, My Fair Lady, Rain Man
第2ラウンド: Dr. Jekyll and Mr. Hyde, Romeo and Juliet, Frankenstein, An Ideal Husband
第3ラウンド: Gone with the Wind, The Picture of Dorian Grey, Dr. Jekyll and Mr. Hyde, Romeo and Juliet
Reading教材は読みやすいとはいえ、読む量が40〜50頁ほどはあるため、「Reading InputからSpeaking Output へ」のどのラウンドも3回の授業にまたがりました。1回目の授業(30分)では、学生はまず、机上に置かれた4種類のテキストを代わる代わる手にとって、ざっと目を通したり仲間と話し合ったりしながら、自分の好きなものを選びます。かち合えば話し合いで決めます。その後、彼らは、自力多読の方法について大まかな説明を受け、多読支援のワークシートも受け取ります。時間が残れば、自分が選んだテキストの冒頭を読む機会が与えられます。こうした中で、彼らは次の授業までに自分なりに工夫して自力で読んでみようと自覚するようです。
Free Voluntary Reading に備え、自分の好きなテキストを選ぼうと模索中(2006年度)
1回目と2回目の授業の間に、新入生はほぼ初めての英文テキストの自力多読に挑戦します。(自力多読の時間を確保するため、連休を活用したり間を2週間とったりなどの配慮をします。例えば、第1ラウンドの多読期間は4月26日〜5月10日。)そして、毎回ほぼ全員が、ワークシートに率直な感想、印象に残った場面や英語表現、作品のテーマ、楽しめたか否かなどを記入し、それを次の授業に持参してきます。このように、この授業の第一の特徴は、各学生がまずReading Inputの体験を自力でしっかり重ねることを重視していることです。学生一人ひとりが後のクリエイティブな諸課題の積極的な思索者・表現者になって英語コミュニケーション能力を育めるかどうかは、「英文テキストを自力で読み考える」インプットの過程がうまく機能するかどうかにかかっているからです。そのため、学生たちがやる気を持続し、クリエイティブな発想の芽を育てることができるように、授業者は授業を自由で楽しい雰囲気の中で進めるように努めます。
Peer Interaction/小グループワーク
2回目の授業(90分)では、同じテキストを読んだ新入生同士で小グループをつくり、インプット用とアウトプット用の2種類のワークシートに沿って日本語でたっぷりトークを行います。前半には、読んできたテキストについて自由に意見交換し、テキスト理解を深化・共有します。後半には、そのテキストからどんなドラマを創るか(Dramatization)について話し合い、次の週の英語によるパフォーマンスに備えます。このように、この授業の第二の特徴は、トークによるPeer Interactionを導入し、それを動機づけ及び学びの重要な過程として機能するよう方向づけていることです。
なお、授業に先立って提出された講読用ワークシートの自由記述から判断して、彼らの読み方や理解度は様々です。懸命に取り組んだと思われる者がいる一方、今一つ取り組みが甘い者や浅薄な者もいました。英語力、読む意欲、集中力が関係しているのでしょう。ただ、学生間の理解度の差は、トークにおける他者との相互作用の過程で、ある程度は埋められます。また彼らの認識の幅は、多様な解釈やより深い理解を示す人の存在を知ることで広がっていきます。こうして皆でより良い理解や多様な解釈を共有してから、後半のトークへ発展的に移行します。
後半のトークでは、各グループに、Reading教材の行間・前後・背後に内在しているはずの人間のドラマを掘り起こし、そのアイディアを具体化してドラマ化(Dramatization)するよう促します。その場合、皆の創意工夫でドラマの大まかな流れ(場面展開や役割分担)や大まかなセリフは決めても、個々のセリフは事前にあまり細かくは決めないほうが望ましいのですが、即興の英語だけで自分の役割を演ずる自信がないためか、セリフをあらかじめ考えておこうとする学生が多く見受けられました。この段階ではしっかり話し合い準備した上でトライする即興的な創作劇なので、それはそれで黙認しました。このトークとリハーサルの様子は、動画・中の前半部に収録されています。なお、後半のパフォーマンスに備えるワークシートは、1〜3のどのラウンドでも同様のものを使いました。ただし、次回まで使うため提出を求めません。
テキストについて意見交換中(2006年度) Dramatization in Englishを構想中(2006年度)
Speaking Output/小グループワーク
3回目(90分)の授業で、学生たちはクラスの前で英語の即興表現(アウトプット)に挑戦します。ただ、その前に、グループごとに、前の週に話し合ったドラマの大まかな流れや役割などを再確認し、創意工夫中の自分たちのドラマがどんなものになるか試しに演ずる機会を与えられます。そして授業の後半が即興的創作劇のプレゼンテーションと相互評価の時間となります。グループ創作のドラマをできる限り即興を重んじて英語で演ずるこのSpeaking Outputが、この授業の第三の特徴です。各ラウンドで使う3回目のワークシートもおよそ同様のものです。
本稿の冒頭にある動画・左が、第II段階における新入生のパフォーマンスを記録したものです。発表中の新入生の様子は、ワークシートの回答からも多少はうかがい知ることができます。第1ラウンドでは、緊張したりあがってしまって、あらかじめ用意したと思われるセリフを噛んだり飛ばしたりしている学生がいますが、第3ラウンドでは、アドリブも出てきて、英語を使うことにも抵抗がなくなるなど、かなり余裕をもつ学生が増えています。各グループの即興劇の出来具合、及び個々人のSpeaking Outputの出来具合は、その場でのクラスの様々な反応も加味して判定できますが、授業者は原則としてその場で講評することは差し控えます。代わりに、学生たちにワークシート上で記述的に相互評価を行うよう求めます。授業中は学生たちに最後まで自力で考え続けてほしいからです。(この結果は次の授業の冒頭で、具体例をあげながら報告します。学生間の相互評価は多様で的を射たものが多く、授業者は時に多少の不足点を補う程度です。なお、この報告は後期にも続けたところ、Speaking力の向上を目指す学生の励みになっていることがわかりました。)そして、Focus on Formの意識を育てるため、各グループに翌週までに「今日の即興劇のスクリプト」を起こすよう指示します。提出されるスクリプト(Writing)の英語表現は推敲が足りないものが多いのですが、Speaking時の自分たちの英語をふり返るいい機会になっているようです。
Improvised Drama in English(2003年度) Improvised Drama in English(2006年度)
Speaking 体験は流れやすいので、学びを定着させる必要があります。第3ラウンドの3回目の授業が終了後、次の授業(7月12日)では、ビデオ録画をみながらそのアウトプット体験をふり返る機会を提供しました(ワークシート1)。さらにその後の授業(7月19日)では即興表現を自ら文字化したドラマ(Scripted Drama)のパフォーマンスも試しました(ワークシート2)。この両授業では、それと同時に、夏休みの課題(好きな英文作品を自分で選んで読んでくるSelf-selected Readingへの挑戦)への案内も行いました。2006年度はこのような形になりましたが、毎年、夏休みに「自分に合った学習法」を見つけるよう促す課題を工夫して出しています。
最後に前期アウトプット体験をふり返ってもらったところ(ワークシート2の後半参照)、一番強く感じたこととして、「自分の口から言葉が出てこない!!今まで一体何をやってきたんだろう」、「自分はいざ話してみるとこんなにも表現力がないのか」、「その場で即時に英語表現をアウトプットする力の弱さ」など、英語では言いたいことが言えないことに気づいたとする学生が多く、他には「インプットが全然足りない」、「日常表現をよく知らない」、「(ドラマの)構成やセリフなどを自分たちで決めるので考える力がついた」などの体験的認識を挙げる学生もいました。また、英語表現力が多少とも向上したかどうかについては、「学生の声」にあるように、まだ事前にセリフを考えて覚えておこうという傾向が強く、即興力が身についたとは言えないものの、「自然な表現がすぐ思いつくようになった」とか「伝えたいことを少しは出せるようになった」など、少しずつ手ごたえを感じている学生が出てきています。
後期の最も大きな課題は、いよいよ準備なしの純粋な即興表現に挑戦する機会を提供し、授業を潤滑に機能させることができるかどうか、です。そのため、前期に英語を使うのはテキストの自力講読とパフォーマンスのときだけでしたが、後期には、相互評価の記入に英語を使うほか、パートナー探しの即興のフリートークも英語で行って、本物の即興へ移行しやすいように授業を設計しました。また、学生一人ひとりが確実に本物の即興表現を経験できるようにするために、グループワークによる即興劇より、ペアワークによるロールプレイをより多く取り入れています。純粋な即興表現へは一足飛びには移行できませんが、一歩一歩近づくように努めました。
◆Reading Input → Peer Interaction → Speaking Output(後期第1〜14回)
Reading Input/個別ワーク
準備なしの本物の即興に近づくために、後期に使った教材/授業回数は次の通りです。なお、これらの後、最終回には締めくくりの3分間スピーチを行いました。
- 夏休みの課題として学生自身が選んだ教材/2回
- Waiting (by Stan Barstow イギリスの短編)/2回
- Two Islands (by Ivan Gantschev 寓話の抄録)/5回
- ‘Bad Boy’ in A Child Called “it” (by Dave Pelzer アメリカのベストセラー)/2回
- ‘The Runaway’ in The Lost Boy (by Dave Pelzer アメリカのベストセラー)/1回
- ‘The Rescue’ in A Child Called “it” (by Dave Pelzer アメリカのベストセラー)/1回
2.から6.までの作品はいずれも数頁〜20頁程度のオリジナルテキストですが、新入生がなんとか自力講読できるような英語で書かれています。2.のWaitingは、若いカップルと夫の老父との葛藤を描いた短編で、読みやすさから選んだものです。ただし、今ではこういう短編のよさを理解できない学生も多く、年度によってはアウトプット活動の促進にあまり役立たないときもあります。以前は、The Invisible Japanese Gentlemen(by Graham Greene)のような著名な作家の比較的読みやすい短編小説も使いましたが、講読・解釈の時間を充分にとらないと学生の理解が成立しないため、この授業では使わなくなりました。
なお、夏休みのSelf-selected Readingのために学生たちが選んだ作品は一つの例外を除いて、一人ひとり違っていました。彼らがそのテキストの多読にどう取り組んだかは、提出された多読支援ワークシートからおよそ判断できます。全体的に堅実に取り組んだ者が多く、なかには2,3冊以上読んだ者もいました。一方、読みが浅く、部分理解に留まったと思われる者もごく少数いました。The Great Blue Yonderなど、内容的に子どもも読めるような作品を選んだ学生は多読を楽しめたとする一方、成人に近い感性を要する作品を選んだ学生はいずれも苦戦しています。Pride and Prejudice (Penguin Readers Level 5)を読んだ2名の学生は共に内容と語彙が難しかったと記し、「細かい心の動きや人間関係、情景描写がうまく読み取れなかったので、つらかった」などと率直な感想を漏らしています。アンネ・フランクのThe Diary of a Young Girl を選んだ学生は、「わからない語彙が多くて内容がつかめない頁もあり3度読みたかったが、1度しか読めなかった」と残念がりながらも、「初めて長い洋書を読んだ」と達成感もみせています。繊細な思春期を描いたThe Catcher in the Ryeを選んだ学生は、「今まで読んだ本の中で一番解釈が難しかった」ので納得できるまで読み返し、「3回目に読んだ時はさすがに理解できる部分が増えて楽しめた」と努力の程を綴っています。ここには複雑な人間関係や人間の微妙な心の動きを読み取ることを苦手とする近年の学生の傾向が見られます。ただ、ある意味では日本人学生が初めてに近い英書の自力多読に苦戦するのは当然です。これらの学生が逃げ腰にならず、苦戦して読むことの意義を知った意味は大きいと考えています。
Peer Interaction → Speaking Output/個別ワーク、小グループワーク、ペアワーク
≪後期初めの授業(4回/10月)≫
後期の最初の1か月(10月)は、すぐに準備なしの即興表現に移行するのはまだ難しいと思われたので、学生がもう少し自信とゆとりをもてるよう、上記1.と2.の教材を用いて、一人ひとりの参加度を高くしつつ、前期コミュニケーション活動のバリエーションを導入しました。1.については次に詳述しますが、2.のWaitingでは、トークを経て前期のような創作ドラマの発表を行いました。その後に準備なしのロールプレイも試みる予定でしたが、時間切れとなりました。やはり同一の授業内で両方を行うことは無理なようです。なお、プレゼンテーション直前のこのトークとリハーサルの授業風景は、動画・中の後半部に収録されています。
夏休みのために学生たちが選んだ作品は各自ほとんど違っているため、前期のような共通の読書体験を基にしたトークは行えませんが、最初の授業ではやはり3,4人のグループを作って、各自の読書体験を発表し合い意見交換する場を設けました。自分の読書体験を披露すると同時に他者の読書体験も知って、学生が視野を広げるためです。その前後には、インプット体験をより確かなものにするために、各自が自分としっかり向き合う時間も挿入しました。2回目の授業では、自分のアウトプット力を再確認するため、全員に読んだ本をドラマティックに紹介する3分間スピーチを試みるよう促しました。前週に予告済みとはいえ、「ドラマティック」に紹介するための工夫に成功する者もいて(例えば、本の中の主人公になりきって紹介する)、クラスの雰囲気も良好で、反応も生き生きとしていました。半年前の4月と比べて、このスピーチにはゆとりが感じられ、3分間をオーバーする学生もかなりいました。
≪Two Islandsを使った授業(5回/11月〜12月)≫
この教材は、ひたすら工業化の道を歩んだ島と、自然との共存を貫いた島を対照的に描いた小品で、ドラマ化に適しているため、ほぼ毎年使っています。2006年度には、授業前にテキストの徹底的な音読を勧めました。大学祭の期間中に音読10回、その後も毎週、音読を続けるように指示したのは、音読のくり返し(確実なインプット)が寓話中の英語表現を即興に自然に生かすこと(アウトプット)につながると考えたためです。その上で、一連の授業はステップを踏んで進め、最終的に本物の即興を導入しました。最初のステップでは、一つの授業内でSchool Lifeと Family Lifeをテーマに2つのドラマの創作と発表を各グループに促すことによって、即興に備える準備時間を半減したのです(ワークシート3)。
次のステップでは、学生一人ひとりがしっかりと即興の試行錯誤にかかわることができるように、ペアでテキストを土台に自由なドラマの創作と発表を行うよう促します。その後最終的に彼らは、授業者が用意した6種類のロールカード(実例)に導かれて、ペアで、準備なしの初めての即興表現に挑戦することになります。初めての即興についての学生の他者評価(英語版)をみると、流暢さよりも、ドラマのメッセージがしっかり伝わったものが高く評価されています。なお、ロールカードを読んでからペアで演ずる本物の即興の様子は、動画・右の前半部に収録されています。体験後の感想から判断して、多くの学生が戸惑いながらも自分の役割をなんとか演じたというところですが、なかには今までのインプロ(即興)とは異なった「生の会話を自然体で楽しむ」ゆとりのある学生も出てきました。
なお、学生たちが書く英文(Writing)の文法的誤りや不適切な表現については、時間に限度があり、かつクリエイティブな自己表現やコミュニケーションを促す授業の性質上、授業者が毎回厳しくチェックするということはありません。ただし、Focus on Formも重要ですから、前期には2度ほど学生が提出した創作劇のスクリプトに訂正を入れて返却し、皆が陥りやすい誤り(例えば、時の不一致)などに注意を喚起しました。後期にはワークシートに英語で回答を求めることが多くなったため、これをどうフィードバックするかが問題でした。そこで今度は、学生自身の力でその英語表現の誤りなどを見つけて修正する授業を1回持ちました。3グループで競い合ったところ、配布された全員のワークシートから多くの誤りが指摘され、修正されました。近年の学生は文章の推敲に無頓着な傾向があり、自力修正力がどこまであるのかわからなかったのですが、このように皆の知恵を集めると動機づけられるためか、積極的に誤りや問題を発見しようとする態度が見られました。前期にもこの方法を使えば、さらに効果的だったかもしれません。
≪A Child Called “It” & The Lost Boyを使った授業(5回/12月〜1月)≫
すでに記したように、教材として使ったのは児童虐待を描いているこの連作のほんの一部、 ‘Bad Boy’(15頁) 、‘The Runaway’(23頁、一部省略)、‘The Rescue’(12頁)、です。この本は若者の関心を引くためか、すでに翻訳で読んでいる学生もいましたので、ともかく英語で読む意欲を喚起するために、「いま話題の本のオリジナルテキストを読んでみよう!」と題して、事前に懇切丁寧なガイドを作成し、渡しました。
これらの教材を使った授業の新たな特徴は、即興のロールプレイへ移行する前に、英語でフリートークするもう一つのステップを設けたことです。つまり、学生たちに、クラス内を自由に歩いて、3人以上の級友に英語で声をかけ、読んだ物語について自由に意見を交換しながら、ロールプレイのパートナーを自力で探すことを指示しました。動画・右の後半部に収録されているように、学生たちは教材を媒介にして、自然体で英会話を楽しんでいる様子です。これが良いウォームアップになって、彼らはその後の即興表現にもためらわずに挑戦しました。この「英語でフリートーク」は3つの教材で3回行ったのですが、結果的に学生たちに快く受け入れられ、授業をより良く機能させるのに役立ちました。なお、フリートークの前には、テキストの印象に残った場面や英語表現などについて、各自が考える時間(個別課題)やグループで考える時間(対人課題)も設け、その後には、チームを組む相手と打ち合わせる時間もわずかながら確保するなど、即興の土台を日本語でしっかり築いておくようにしました(ワークシート4〉。このように、一つの授業内でも即興の土台を築きつつ、一歩一歩本物の即興に近づくようにしました。
次の「学生の声」にあるように、後期の最後に導入した「フリートークから即興へ」の3回の授業について、学生がコメントを寄せています。視点が内向きで終わっている学生がいる一方、自分と他者を比べるゆとりのある学生もいます。後者の学生は、皆のSpeaking力が上がったことを指摘しています。もちろん一方ではまだ言いたいことが言えないという思いを抱えてはいますが、恥ずかしがらずに英語で話そうとする意識が高まっただけでなく、つかえずに自然に英会話がはずむこともあると体験的に認識できるようになったのは、一歩前進した証拠と考えていいのではないかと考えます。実際、最終回の3分間スピーチ(テーマは一年間のCreative Speakingの体験をどう楽しみ、そこから何を学んだか)では、大半の学生が、自分の英語力の変化やクラス全体の英語スキルの変化について、3分かそれ以上話し続けました。しかも、多くのスピーチには伝えようとする熱意とユーモアもあって、メッセージが聴衆の心にしっかり届くようになりました。各種ドラマのほか4月に2回、10月に1回とスピーチを経験した後のこの4回目のスピーチは、英語表現力は未熟ながら、授業開始直後のぎこちないスピーチとは全く違っていました。
最終回のスピーチ風景 「1年間の授業をふり返って」アンケート記入中
大半の受講生がこの授業の諸課題に取り組むくらいの英語力をもっていたとしても、彼らのやる気が伴わなければ、この授業はうまくいかなかったと思います。最後のスピーチやアンケート「1年間の授業をふり返って」の回答によれば、当初は英語を使う緊張感や抵抗感、あるいは恐怖感を感じてこの授業が嫌だった、とユーモアたっぷりに語る学生が何人かいましたが、仲間との相互作用の中で徐々に学ぶ意欲をかき立てられて、即興で英語を話すことへの挑戦を楽しむ学生が増えていったようです。ただし、英語力不足の若干の学生はついてくるだけでも大変だったようですが、途中で脱落することはありませんでした。こうして、なんとか所期の目的を達することができたのではないかと思います。アンケートの回答を参考にして、次に目標がどう達成されたかみておきたいと思います。
第一に、「自力で読んで考える」という習慣をもたなくなった大学生のすっかり弱まったインプット(Reading)力を少しでも回復するために、教室では一切講読を行わず、自力多読という課題を導入してそれをアウトプット型教育の出発点としたわけですが、「声に出して何十回も読んだものはOutputしやすかった」とか「途中から重要な文や日頃使えそうな文を書き出しながら読み進めました」といった記述から推して、大方の学生がこの課題に忠実に取り組んだことがわかります。ただし、この授業の嫌な点として「準備が大変」と記す学生がいました。このように、この自力多読が大方首尾よく成立したのは、インプット教材、特にPenguin Readersの名作の数々、Two Islands、A Child Called “It”が好評だったため、そして明らかに、後に控えているアウトプット(即興への挑戦)が動機づけになったためと考えられます。Penguin Readersは自分の興味や能力に合わせて選ぶことができる上に、会話に使える口語表現が多く含まれ、辞書を使わずに読めるので、自信につながったとのこと。現在の大学初年次生の英語力と知的成熟度(あるいは未熟度)に合った教材なのかもしれません。これがオリジナルな本物のテキストを読むための入り口になるのかどうかはまだわかりませんが。 なお、各学生の自力多読によるテキスト理解がどの程度のものであったかは、理解度テストをほとんど行わなかったため、客観的には把握していません。
第二に、この授業はSpeaking Skillを高めるアウトプット型英語教育を目指しているわけですが、 ある学生はこの授業の良い点として、「今までに受けたことのないタイプの授業なので、新たなスキルを身につけることができる」と記し、具体的には、人前で英語を話す度胸がつく、Speakingの幅がひろがる、他者の発表が刺激になる、の3点を挙げていて、この授業がそれなりの成果をあげたことを証しています。彼はまた、「読めば読むほど表現の幅が広がり、Outputでもセリフが出てきやすかった。特に印象に残る場面やセリフはUnprepared Improvisationでも自然と出てくるものでした。逆に読みが浅かったときはうまく劇で表現できませんでした」と述べていて、「インプットからアウトプットへ」という本授業の命題に意味があったことを示唆しています。ただし、ある学生がこの授業の悪い点として「能力の差が顕著に出る」と指摘しているように、積極的に参加できた学生が大半を占めたものの、中途半端にしか参加できなかった学生も若干いました。また、授業中表面には出てきませんが、思うようにアウトプットできないために緊張し過ぎたり、なかなか上達しない自分にイライラしたりした学生もいたようです。
学生たちが好きなアウトプットのタイプは、ロールカードを使った初めてのインプロ(11〜12月)とテキストを読んできてペアで少し打ち合わせてから行うインプロ(1月)が大半を占め、本に書かれていない部分を自由に想像してつくる即興的創作劇は2名のみでした。本物の即興が好きな理由として、「即興力がつく」、「自分の実力がわかる」、「相手の様子をみながらの会話は楽しい」、「考える時間がない分、とっさに頭の中で考えながら演じたことでImaginationも鍛えられたし、相手と共同作業でつくりあげていく楽しさも実感できた」などが挙げられていました。授業者としては、前期の即興的創作劇の体験があってこそ、後期の本物の即興が実際には渋滞することが多かったものの、当人たちは案外気に入ったのではないかと考えます。なお、自由記述で、理由を述べた上で「楽しかった」とか「楽しめた」と書いている複数の学生には、インプット(自力多読によるテキスト理解)において「何度も読む」とか「重要な構文、語彙、英語表現を意識的に覚える」など人並み以上の努力をした形跡が認められます。主体的な英語学習の方法を取り入れて苦労したからこそ感じる楽しさだったのでしょう。
どんな教材を選んでどんな授業をデザインしたら、新入生をこの授業に巻き込み、彼らから学ぶ意欲を引き出し、授業の内外で彼らの頭を働かせ続けることができるのか。もっと良い教材や方法があるのではないか。この一年間、多角的な視点から考え続けました。一方では、受講生に注意を払い続けました。授業中に目や表情が生き生きしているか、毎回ワークシートに記入される彼らの生の声に何か問題はないか、と。それというのも、「英語による自己表現力とコミュニケーション能力を高める」という難題に取り組み、新入生の導入教育をなんとかうまく機能させたいと思ったからでした。ここまでしなければうまくいかないというのもどこかおかしいように思います。しかし、今ふり返れば、授業者は毎授業の冒頭に出合う学生の熱い視線やにこやかな視線に支えられながら授業を進め、初期の頃の一部学生の当惑した表情が徐々に確かな表情に変わるのを見届けることもできました。結果的に、学生参加型のこの授業は、年間を通して、順調に機能したほうだと考えています。最後の授業を終え、研究室に戻ってアンケートをみていると、ある受講生の言葉に目がとまりました。「英語を学ぶことの楽しさが一番実感できる授業でした。自分に自信もつきました」 と。このひと言で一年間の長い迷いと疲れが吹き飛びました。
- 清水豊子 1998 「文学的テキスト(戯曲)からパフォーマンスへ〜英文学教育の一方法」 『千葉大学教育学部研究紀要』第46巻II
- Toyoko Shimizu 1993 ‘Initial Experiences with Improvised Drama in English Teaching,’ in Towards Drama as a Method in the Foreign Language Classroom, ed. by Schewe, M. & Shaw P., Frankfurt am Main: Peter Lang
- Toyoko Shimizu 1989 ‘Drama in Britain: A Perspective from Japan,’ in London Drama (Nov. 1989), London: Holborn Drama Centre





