現在製作中です

創造・学習・コンピュータ(京大側科目名)

How Children Will Finally Invent Personal Computing (UCLA側科目名)

創造性教育・問題解決型学習,遠隔講義と国際交流

文責: 喜多 一

*学内の方のみ、TIDEプロジェクトのビデオ・アーカイブを
すべてこちら英語版)で見ることができます。

◆授業科目名:

創造・学習・コンピュータ

◆授業担当者:

喜多 一 (京都大学学術総合情報メディアセンター・教授)
Alan Kay (Professor Adjunct, UCLA. President, Viewpoints Research Institute,
    京都大学情報学研究科・客員教授)

◆テキスト:

B.J. Allen-Conn & Kim Rose (2003) Powerful Ideas in the Classroom. Viewpoint Research Institute.

◆授業のテーマと目的:

コンピュータはプログラミングすることで多様な機能を発揮できる万能の機械です。そして,それは様々なメディアを包含するメタメディアであり,創造のための強力なツールとなります。創造活動にとって,数学や科学の知識は重要な素養ですが,コンピュータはそれを理解するための強力な支援ツールでもあります。

この授業では,子どもが数学や科学の基本的概念を,コンピュータを用いて学ぶことを通して,同時に創造性を養うようなカリキュラム注1を,大学生にデザインしてもらい,学生に「創造するということ」「そこでの科学や数学,そしてコンピュータの役割」「そのための教育の方法」などを学び取ってもらうことを意図しました。

注1 授業で学生が開発するプログラムはひとつの「教材」ともいえますが、「子供たち自身がそれを構成(プログラミング)することを通じて学ぶ」というコンセプトに従ってデザインされているため、それを中心として子どもの学習活動全般が方向付けられ構成されます。したがって、Alan Kay 氏らの活動で本授業でも 「カリキュラム」という呼び方を用いており、ここでもそれを踏襲します。

すなわちこの授業は,
▽「小学生が自ら自然現象を表す数式や物ごとの処理手順などをプログラムとして記述することにより,数学や科学の学習が可能なカリキュラム」を,
▽題材の選択,学習目標,教える手順などを具体化しながら大学生に設計させる
ことを通じて,
  創造性の教育・学習とそこでコンピュータが果たせる役割について学ぶ,というものです。

これにより,大学生自身の問題解決能力の向上,コンピュータ動作原理の基礎的な理解とともに,実際に小学生を対象にした学習活動における運営と検証の能力を養うことを目的としました。

◆授業への協力者

この授業では,パーソナルコンピュータという構想の提唱者であり,またコンピュー タを用いて子供たちの創造性を養う教育にも実践的に取り組んでいる Alan Key 博士を パートナーに,学術情報メディアセンター情報教育システム研究分野(社会情報学専攻 情報フルーエンシー講座教育・連携講座)の喜多が担当しました。また,共同担当者と してAlan Kay博士とともにコンピュータを用いた教育環境の構築に取り組んでいるKim Rose氏や,同氏らのグループの協力を得て発足したALAN-K(Advanced LeArning Network in Kyoto)プロジェクトに取り組んでいる本学COE研究員 高田秀志氏の全面的 な協力を得ました。

京都大学側

授業の共同担当者 高田秀志(京都大学・情報学研究科COE研究員)
ゲストスピーカ 阿部和広(ビューポイントテクノロジー)
守屋和幸(京都大学・情報学研究科)
TA 吉正健太郎,上野山智(京都大学・情報学研究科大学院生)
ワークショップ開催 京都市教育委員会,高倉小学校,御所南小学校
TIDE プロジェクト 渡辺正子(京都大学・学術情報メディアセンター助手),高井孝之(同センター技術系職員),中村研究室(同センター)
ビデオアーカイブ 美濃研究室(同センター)

UCLA 側

授業の共同担当 Kim Rose (Viewpoint Research Institute)
ゲストスピーカ Seymour Papert (MIT), Bran Ferren
TA 大島芳樹 (Viewpoint Research Institute)
TIDE プロジェクト Robert Kohne (UCLA)

Alan Kay 氏

Alan Kay 氏

◆創造性教育のための問題解決型学習(PBL:Project-based Learning)

○小学生のためのカリキュラムを学生が設計するという目的をめざして

この授業では,小学生が数学や科学の基本的概念を,コンピュータを用いて学ぶためのカリキュラムを開発することが,学生に与えられた最終の目的です。この目的達成に至る過程で,学生が自主的に創造的に考えたり問題を解決したりすることから学び、ひいてはそれが学生の創造性につながることを期待しています。その意味では,この授業は,問題解決型学習(PBL : Project-based Learning)の性格を持っていま。

○授業の時間の構成

問題解決型学習の場合,学生が試行錯誤しながら体験的に学んでいくことが大切となります。したがって,講義に充てる時間は全体の半分程度とし,残りは学生のグループ活動やチーム発表,小学校でのワークショップの開催などをおこないました。

講義の内容は,授業のテーマに沿って学生に問題意識を持たせるものや,実践例の紹介など実際のカリキュラム設計のヒントとなるもので構成しました。その際,科学教育での重要さなどに配慮して,コンピュータの中だけでの活動のみならず,科学実験を取り入れ,コンピュータの外側で行う活動との結合にも配慮しました。

授業の後半は,主に学生によるカリキュラム案の発表とレビューです。5人程度を1組とする学生のグループがそれぞれ2回,自分たちのカリキュラムの設計案を遠隔講義で発表し,相互にレビューしました(UCLAとの合同授業はここまで)。

○小学校でのワークショップ

UCLAとの合同授業が終了した後,京都大学側では学生自身がカリキュラムの開発を進めました。このカリキュラムで子どもたちが実際にどう学ぶか,子どもの反応はどうなのかを知ることは,学生にとっても良い学習の機会になります。授業の最後のほうには,学生が設計したカリキュラムにそって実際に子どもたちに学んでもらうワークショップを小学校で開催しました。

◆遠隔講義と国際交流

○TIDEプロジェクトビデオ・アーカイブ:学内限定

この授業の前半は,すでに6年にわたる実績を持つUCLAとの遠隔合同授業(TIDE)の一環でもあります。今年度は,講義のほか,進捗状況の遠隔講義システムを通した英語でのプレゼンテーションをおこないました。

また,5月下旬には,京大側の受講生の約半数がUCLAを実際に訪問しました。学生自らが現地での活動計画を立て,本コースの講義にUCLA側で出席するだけでなく,美術館を見学したり,UCLAで開講されている他の授業へ出席したりもしました。UCLA側で参加した授業では,日本側の学生が文化交流に関するプレゼンテーションの実施もおこないました。また,UCLA側の学生と交流を深めるため,パーティなども企画されました。このように,本授業に関連して国際交流が行われています。

この訪問の授業への効果は高く,Alan Kay 博士からは,「訪問後,学生の態度が明らかに違った,この訪問をぜひ授業期間の早い時期に実施するとよい」というコメントを頂きました。メディア技術が進歩したとは言え,遠隔講義でも実際に直接会うことを1度は行う必要があると感じられました。

※なおUCLA訪問は,京都大学教育研究振興財団の資金援助により行われました。この場を借りて謝意を表したいと思います。

◆授業日程

実際の授業日程は,以下のとおりです。前半がUCLAとの合同授業を含み,UCLAへの派遣をはさんで後半は小学校でのワークショップへ向けての準備となっています。

授業日

担当者

内  容

4/9(金)

京大,
UCLA全員

講義に関するオリエンテーション

4/14(水)

Alan Kay

創造性教育とコンピュータの役割について(1)

4/16(金)

Seymour Papert 科学・数学教育とコンピュータのあり方について

4/21(水)

Alan Kay

創造性教育とコンピュータの役割について(2)

4/23(金)

喜多 一

創造性について考える

4/28(水)

高田 秀志
(京大)
Kim Rose
(UCLA)

Squeak チュートリアル(1)

4/30(金)

Alan Kay

創造性教育とコンピュータの役割について(3)

阿部 和広

「世界聴診器」の紹介

5/7(金)

高田 秀志
(京大)
Kim Rose(UCLA)

Squeak チュートリアル(2)

5/12(水)

喜多 一

カリキュラム開発プロジェクトの方針説明

5/14(金)

Alan Kay

創造性教育とコンピュータの役割について(4)

5/19(水)

Bran Ferren

産業デザインについて

5/21(金)

全員

カリキュラム開発に関するグループ活動の発表(初期デザイン)

5/26(水)

全員

カリキュラム開発に関するグループ活動の発表(初期デザイン)京大側学生のUCLA からの文化交流プレゼンテーション UCLAへの派遣

5/28(金)

Alan Kay

創造性教育とコンピュータの役割について(5)

高田 秀志

京都におけるALAN-Kプロジェクトの取り組み

6/2(水)

守屋 和幸

環境教育・環境学習とフィールドでの情報機器の活用

6/4(金)

全員

カリキュラム開発に関するグループ活動の発表(詳細デザイン)

6/9(水)

全員

カリキュラム開発に関するグループ活動の発表(詳細デザイン)

6/11(金)

全員

グループ活動の発表(詳細デザイン) (UCLAとの合同授業はここで終了)

6/16(水)

京大側教員
全員

(この日以降は京大のみ,コンピュータのある演習室を利用)
カリキュラムのSqueak上での実装

6/18(金)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装

6/23(水)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装

6/25(金)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装

6/30(水)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装

7/2(金)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装,京都市教育委員会によるレビュー

7/7(水)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装,ワークショップ準備

7/9(金)

全員

カリキュラムのSqueak上での実装,ワークショップ準備

7/10(土)

全員

高倉小学校でのワークショップ開催

7/14(水)

全員

ワークショップの結果を踏まえたグループ活動の発表

UCLA との遠隔講義,パーソナルコンピュータを使った教材開発の演習へのグループでの取り組みとその進捗状況の遠隔講義での英語でのプレゼンテーションとレビュー,実際の小学校でのワークショップの実施と,一部の学生の交換プログラムでの UCLA への派遣など、盛りだくさん過ぎるかと思われるハードなコースでした。しかしながら,このコースをなんとか無事にこなした学生には貴重な体験となったようです。

授業の様子

授業の様子(H15年度に故上林教授が担当した時のもの,スクリーン内は Kim Rose 氏)

○後半はプレゼンテーションを中心に

同様の授業は平成15年度にも実施され,本年度はその継続として企画されたものです。15年度に担当された上林弥彦教授の急逝から,急遽,喜多が担当したといういきさつがあります。15年度には授業時間を主にゲストスピーカを招いてのリレー式の講義に充て,学生のプロジェクトは授業時間外に行われていましたが,これがやや消化不良的な状況であったとのことでした。このことを反省して,16年度は授業の後半を学生のプロジェクトのプレゼンテーションを中心に構成しました。

プレゼンテーション

作成したカリキュラムのプレゼンテーション(京都大学側だけで実施)

◆用いた教材

○良い教材が重要

この授業の UCLA 側の担当者である Alan Kay博士は,コンピュータの持つメタメディア的役割と創造活動のためのツールであることに早くから着目し,ゼロックス・パロアルト研究所にて現在のパーソナルコンピュータの原型であるAlto の開発に携りました。現在は,創造のためのより使いやすいパーソナルコンピューティング環境の創出を意図してSqueak注2というソフトウェアの開発を行い,コンピュータを用いて子どもの創造性を養う教育にも実践的に取り組んでいます。この授業では。このプログラミング言語を教材として用いました。

Squeak は,オブジェクト指向プログラミング言語の一種です。オブジェクトを操作するための命令が記述されたタイルを組み合わせるだけでプログラミングが可能な,初等教育に適したeToy と呼ばれるインターフェイスを持っており,利用実績も豊富です。またパソコンへのインストールも容易で,このソフトウェアを格納したフラッシュメモリさえあれば,通常の Windows パソコンで,なんらインストール作業を行うことなく容易に起動できるなどの利点があります。このため学生は学術情報メディアセンターの PC 端末と各自の保有する PC とを連携させて作業を進めることができました。この種の授業では実践的な研究活動で開発された良い教材を用いることは極めて重要であると言えます

注2) Squeak の詳細についてはスクイークランドの web サイト(http://squeakland.jp)を参照ください。

◆小学校でのワークショップ

京都市教育委員会,高倉小学校,御所南小学校の協力を得て 7月10日(土)に高倉小学校で実際に子供たちに学生が設計したカリキュラムにそって学んでもらうワークショップに臨みました。実際に開発されたカリキュラムは5件で,そのうち2件は実際の科学実験とコンピュータ利用を関連付けたものでした。子供たちの反応も良く,アンケート結果では「内容が面白かった」「やさしく教えてくれた」「時間いっぱい楽しめた」「外国の人がいて楽しかった」などの意見が大勢を占めました。ワークショップの様子は,翌日の京都新聞で報じられています。

ワークショップ

高倉小学校でのワークショップの様子

◆開発されたカリキュラムの例

Alan Kay博士は自身の経験を踏まえ,小学校高学年程度の子供のもつ抽象化能力や興味の持たせ方,科学とコンピュータの関連といった視点から各プロジェクトにさまざまな助言を与えました。そのこともあり,学生により開発されたカリキュラムはいずれも今後の継続的な利用と発展が望める質の高いものでした。そのうちここでは2例を紹介したいと思います。

○カリキュラム例1

カリキュラム例1-1

これは馬車を引く力と摩擦力によって加速度を求め,その動きをシミュレートするカリキュラムです。このカリキュラムでは,牽引力や摩擦係数を変えることにより,運動がどのように変化するかをさまざまに試すことができ,そのような運動の原理として下図に示すような運動方程式に基づいたスクリプトを理解することが求められます。ポイントは,引く力と摩擦力により加速度が変化する部分(図の赤枠部分)であるが,この部分は「坂道の場合どうなるか」「宇宙空間の場合どうなるか」などの拡張が可能です。

カリキュラム例1-2

また,このカリキュラムを開発したチームは教授方法として,子供たちにコンピュータを使わせることに先立って辞書(重い本)に紙やすりや布などを貼り付けて摩擦係数を変化させ,それを実際にゴムひもで引っ張り,その際のゴムの長さの伸びを計測するという実験を組合わせ,コンピュータ上での学習と現実世界の現象を結合させることを導入していました。

○カリキュラム例2

カリキュラム例2

このカリキュラムでは、授業でも紹介された「世界聴診器」というインターフェイスを用いて,外部の信号をコンピュータに取り組み,その信号で自動車レースを行おうというものです。外部の信号としては,レモンなどの果物に種類の異なる2枚の金属板(電極)を挿入した際に生じる電圧(いわゆるレモン電池)を選びました。これにより,外界の情報をコンピュータで処理するということを体感することができるわけです。また,金属板の種類を様々に変えることや,電池を直列接続することが生じる電圧を規定するという科学の知識を,生じる電圧を最大にする(自動車が最も速くなる)というゴールのもとで,探査的に学習することができるようになっています。

このカリキュラム設計での重要な点の一つは,「準備しすぎないこと」です。教える側は電池が簡単に構成できること,その電圧がさまざまに変わること,それをコンピュータに取り込んでコンピュータの中でその情報が利用できること,その一例として自動車の速度を変えることができることなど,簡単にできる素材やヒントを示すわけです。そうすれば子どもたちは,自分たちで勝手にいろいろなことを試し出します。これこそが,まさに Squeak を使った創造性教育の狙っているものでもあります。

◆授業を支える多くの要素

○遠隔講義の運営

TIDE プロジェクトの数年に渡る取り組みの結果, UCLA と実時間で共同講義を行う上での技術的なストレスはほとんどない状態に,遠隔講義システムは仕上がっています。ところが一方,このような環境でのコースの設計や運営のノウハウは暗黙知的であり、形式知化されていないのが実状です。そのため,本授業は,事前の準備から実施,UCLA へのツアーの企画など,このプロジェクトのお世話をされている渡辺正子助手のアドヴァイスや,ALAN-Kプロジェクトを推進しているCOE 研究員の高田氏,前年度にも担当した TA の吉正氏の経験に負ったところが大きくあまります。米国の大学との共同講義は,セメスターの期間がずれていたり,単位を与える授業時間数が異なっていたり,授業評価などが実施されていたりするという制度的側面の違いなど,考慮し解決すべき問題が多くあります。また,遠隔での講義を効果的に運用するための準備や,現場での機器の有効な活用といった運用面など,さまざまな知識,ノウハウが必要となります。今後は,これらを形式知化し共有可能にしていくことが,より質の高い授業の展開のために必要でしょう。

○総合的に授業を支援するシステムの必要性

遠隔講義,コンピュータを用いた実習,グループワーク,学外での実習など,本コースを構成するいずれの要素も,単に一人の教員が教室で学生と向かい合う従来の授業とは異なり,さまざまな能力を有するスタッフのチームプレーで始めて成立します。このチームプレーがあってこそ,単なる座学だけに留まらず,コンピュータと創造的な活動に対する様々な立場からの考え方の習得,実際にSqueakを用いたカリキュラム開発,小学校での実践という幅広い活動が可能となりました。(そのことをご理解頂くために,あえて授業への協力者・組織を数多くリストアップさせていただきました。)TIDE プロジェクトのスタッフも,授業を支援してくれた TA も,経験の豊富な方々ばかりでした。今回の授業の実施上,特段の問題は生じませんでしたが,誰が欠けてもこの授業は成立しなかったといえます。その意味で授業がチームでなされるという認識を常に持つことは,重要だと思われます。

今後,このような新しいタイプの授業を一部の学生のみが機会を得る試験的な段階から,希望する学生ならば誰でも受講できるコースへと充実させることを目指すならば,大学が組織として総合的に授業を支援する体制の整備は,不可欠だと思われました。

◆学生の期末レポート

授業では単位認定のために期末レポートを課しました。すでに受講生はカリキュラムの開発と小学校でのワークショップを経験していたので,レポートの課題としては特にテーマは限定しませんでしたが,「この授業を経験して誰に何を伝えるのが価値のあることか」を見定めてレポートを書いて欲しいと伝えました。提出されたレポートは経験に根ざし,読み手を明確に意識して欠かれており,いずれも極めて質の高いものでした。この授業が目指した創造性育成のためのカリキュラムについて言及した例としては,以下のようなものがあります。

授業の中でアラン先生が何度もおっしゃっていたことだが,やはりプログラムの内容は極力簡素でなければならないと思う。本質的な部分だけを残したプログラムならば,子どもたちがどんなに数字を変えてみたり,スクリプトを追加したりしてみても,その影響が目に見える形で反映されるか,そうでなければなぜ反映されないのかを考え,理解することができるはずだ。そうしているうちに少しずつそのプログラムの仕組みがわかってくる。そうなると次は,「あの指示とこの指示を組み合わせればこういうことになるんじゃないか」とか「ここにこういう指示を出したらどうなるんだろう」などという考えが浮かんでくるだろう。あるいは,そのうちにまったく既存の枠にとらわれない考えがわきあがってくるかもしれない。こうした思いつきこそが,アラン先生がおっしゃる創造性であろう。

(文学部一回生 男子,一部を引用)

授業ではグループ活動を行ったこと,UCLA との遠隔講義に加え,京大側の受講生も 1/3 程度が KUINEP の交換学生を含め留学生であったため,京大側のみの活動でも言語,文化の異なる学生間のコミュニケーションが求められました。レポートでもグループワークと異文化コミュニケーションの2件について,その難しさを含めて体験などを報告したものが多くありました。その例として,以下のようなものがああます。

Language was an obstacle to the communication within the group. 2 people out of 6 only spoke English, 2 others only Japanese and the 2 last ones spoke both and played the role of translators. If we had had an unlimited amount of time, this wouldn’t have been a problem. But our meetings were short, so not much could be done since every sentence pronounced had to be translated. After a few attempts, every one of us understood it pretty well and started working for himself or in smaller autarkic groups (of 2 people), not sharing their progression with the rest of the group. As it appeared, one month before the workshop with the children, we discovered that two totally different projects were going on.

(KUINEP 留学生,一部を引用)

◆学生による授業評価

授業最終回に学生にアンケートを配る形で授業評価を求めました。評価結果を次の図に示します。

授業評価

グループでの学習やワークショップへの取り組みなどに関連する事項では,高い評価が得られています。一方,遠隔講義のポイントである UCLA とのコミュニケーションの評価はあまり良くありません。これは UCLA 側の授業で Kay 博士の講義の内容がやや難しかったこと,講義の際にスライド資料が UCLA 側でスクリーンに投影されたものをカメラ撮りして中継されたこと(その間,話者の口元や身振りが見えない)などに起因すると思われます。また,比較的,宿題が多くかつ,あまり時間的余裕がないスケジュールで出されたことや,Squeak についてのチュートリアル時間をあまり取れなかったことなどに関連した事項の評価も低く,今後の改善を要すると思われました。

◆学生派遣にまつわる難しさ

○UCLAへのホームステイ

UCLA訪問では,学生どうしの交流を深めるため,また旅費の圧縮のために,学生自身がオーガナイズして UCLA 側の受講生等にホームステイをお願いしました。このようなことが可能なであったのは,TIDE が継続的に実施され,前回の経験者がそのノウハウを何らかの形で次に伝えてくれているという点,TIDE プロジェクトの特性から上級の学年の受講者もおり,学生内でのリーダシップが確立されやすかったからだと言えます。

訪問期間は UCLA の学生にとって試験間近の期間でした。それにもかかわらずホームステイを快く受け入れてくれた UCLA の学生には心より感謝をするとともに,先方の事情へ の配慮が訪問者には求められることを指摘しておきたいと思います。

○UCLA派遣にまつわる難しさ

訪問に関連して,学生によってはパスポートやビザ(留学生)の取得が必要であり,また学期期間中の訪問であるため他の授業は欠席せざるをえなくなります。担当教員がこれらに要する書類を準備したり,学生自身が欠席する各授業について教員の了承を得たりするなど,必要な事項や書類,所要時間について把握し準備することが求められます。

TIDEの授業では KUINEPの学生が多く参加します。しかし,KUINEP の学生のUCLAへの訪問参加は,今回は断らざるをえませんでした。というのも,UCLA訪問は,京大生とUCLAの学生の相互交流であるという趣旨,他の授業を欠席しなければならないこと,今年度の授業は担当予定であった上林教授が急逝し,急遽交代した授業担当者にすでに多くの負担がかかっていたという諸事情のため,KUINEP学生の派遣を実現するのは,制度的にも時間的にも困難だったからです。過去には,担当教員が旅費の工面などしてKUINEP の学生の同行を特別に認めた例もあるようで,今回はKUINEP の学生にとっては学生の差別のように取られてしまった面もあります。この点でも,今後は明確な指針の確立と十分な説明を行う必要があると思われました。

 

謝辞

ALAN-K プロジェクトで中心的に活動されている京都大学情報学研究科COE 研究員 高田秀志 博士には本授業を共同でご担当頂いくとともに,この原稿をまとめるにあたっても多大のご協力を得ました。ここに感謝の意を表します。

※なお,本授業については以下のように学会で報告を行っています:

喜多,高田,吉正,上野山,渡辺,キムローズ,アランケイ,大島:京都大学・UCLA を結んだ遠隔講義による創造性教育,教育工学会,第20回全国大会(2004)