現在製作中です

ドキュメンタリー・環境と生命

一方方向型の授業→双方向型の授業

テレビ・ドキュメンタリーを教材に使用

投票欄付き出席サイン帳

授業のホームページ

メーリングリストで意見交換

2002年度と2003年度の学生アンケート

文責: 木野 茂

動画01 動画02 動画03

*動画は授業の雰囲気を伝えるものです。頁内容とのリンクは基本的にありません

*動画をご覧いただくにはQuickTimePlayerが必要です。

◆授業科目名:

ドキュメンタリー・環境と生命(2004年度のシラバス*1

◆授業担当者:

木野 茂 (大阪市立大学・大学教育研究センター助教授)

◆テキスト:

なし

◆授業のテーマと目的:

私は大阪市立大学が新教育課程へ移行した1994年以来、教員と学生による双方向型授業の必要性を痛感し、いくつかの科目を自ら開発・ 実施してきた。その一つである「公害と科学」は一般の講義型授業をどこまで双方向にできるかを追求した授業であり、もう一つの「科学と社会」 は集中講義を利用して双方向の多様な試みを詰め込んだ授業であり、さらに「人間と科学 演習」は小人数ゼミで徹底的な双方向を実現した 授業である。

講義、集中講義、セミナーと3つの異なる形態の授業により、双方向型授業の試みは一応達成したと思えたが、私にはもう一つ別の形態の 授業が浮かんだ。それがこの映像教材とメールを活用した授業である。これまでも映像教材やメールを授業の中で使ってはいたが、 あくまでそれらは授業の中での補助的な位置づけであった。それに対し、映像教材とメールを中心に授業を展開しようというのがこの授業の 目的である。

授業のテーマは私の他の科目との相互補完性を考えて「環境と生命」とした。

◆授業への協力者(敬称略):
山中由紀(大学院卒業生:テレビ・ドキュメンタリーの選定及びボランティアでT.Aとして授業を補助)
Y.K(卒業生:メーリングリストの管理等のサポート)
○テレビ・ドキュメンタリーを教材に使用

現代の自然科学と人間の関わりの中でも、環境と生命は人々から大きな関心をもたれているテーマである。ところで、この種のテーマでは ドキュメンタリー(映像記録)が授業の極めて有効な素材であるが、セメスターの時間数との関係で、講義の補助的な説明に使うのが 精一杯である。

一方、現代の学生は様々な媒体による膨大な情報に囲まれているが、その中から必要な情報を得ることに慣れていない。ドキュメンタリーはその貴重な情報の一つである。

そこで、この授業では他の講義主体科目との相補的なアプローチを目指して、テレビ・ドキュメンタリーの鑑賞をメインに展開する。 もちろん、単なる鑑賞で終わるのではなく、そのドキュメンタリーから問題を読み取り、場合によっては批判的な考察も含めて、 自分の考えをまとめることが目的である。

なお、ドキュメンタリーをテレビ・ドキュメンタリーにした理由は、時間が50分前後なので1回の授業時間の中で使いやすいことと、 学生が親しみやすい最近の話題を選びやすいためである。

○毎回の授業に合わせてプリントを作成

テキストの代わりに、毎回A4版で4頁立ての授業用プリントを用意している。その内容は番組のホームページや番組紹介の記事などから 編集した番組紹介の頁と、ドキュメンタリーのテーマに関する基礎的知識や資料を編集した学習用の頁からなり、さらに参考図書や参考 ホームページを紹介している。授業では講義をほとんど行わないので、学生は授業の後、この授業プリントを頼りに自学自習を行うことになる。

○授業のホームページを作り、授業の進行に合わせて更新

授業専用のホームページを作り、授業の記録を順次追加していく。内容は、毎回の授業の番組紹介、学生の 要約*2のうちで優れたもの、学生投票による最多得票と 次点の意見*4、私が別個に選んだ 意見*4数点で、さらにときどき私が 授業の総括的な文章を書いている。授業プリントとホームページのプリントを合わせていけば、自動的に授業ノートができる。さらに、 学生たちに自分たちで作る授業という実感を持たせることも意図している。

○双方向型授業のタイプ:「観る・語る」型

授業の改善のために、これまで授業内容や授業方法に関する様々な工夫と改善策が提案され、実践されてきた。しかし、その多くは、 いかに良く教えるかが目的であった。

私もこの10年間、新教育課程の全学共通教育の中で4つの総合教育科目を開発し、実践してきたが、最も力を入れてきたのは、いかに良く 教えるか以上に、授業を通していかに学生が自ら考えるようになるかであり、いわゆる双方向型授業の実験である。

表1は平均的な講義型授業に対する私の4つの科目の特長と工夫をまとめたものである。

表1 双方向型授業のタイプ
 規模(人)読む観る聞く語る書く 
(平均的な講義)100〜200 講義中心型
公害と科学100〜200 双方向型講義
科学と社会50〜70 双方向フルコース
ドキュメンタリー環境と生命50〜70 映像活用双方向授業
人間と科学・演習10 小人数セミナー

小人数のセミナー(演習)は必然的に「語る」に重点を置く双方向型であるにしても、一般授業を双方向型にするには授業設計や授業方法で 意識的な工夫が必要である。表1に示したように、私の場合、セミナー以外では「観る」と「語る」に力点を置いてきた。

「観る」はマルティメディアを使って学生の理解を助けるだけでなく、授業に変化を持たせるためである。「語る」は質疑や ディスカッションのことであるが、普通の授業の中では時間的な制約が大きい。そこで、私の「公害と科学」(※)では、「なんでもカード」 を自由に提出させ、次の授業時にそれぞれのカードにコメントをつけて編集した授業週刊誌を作っている。

このように、講義を軸にする授業では「観る」も「語る」も限界があるので、思い切って授業から講義を外し、「観る」と「語る」を 中心に双方向型授業を展開しようというのがこの授業の特徴である。

○メーリングリストで意見を交換

この授業での双方向型の「語る」はメールを利用することにした。最近の学生のパソコン利用率の上昇と、本学のキャンパスLANや 情報処理施設の充実により、ほとんどの学生が1回生前期の間にEメールを扱えるようになったことと、教室で多人数の中で意見発表する人は 少なくても、カードやメールでなら抵抗なく書けることがわかったからである。

メールを全員に配信するためのツールとしてはメーリングリストを使うことにしたが、一人が投稿するたびに配信していたのでは人数が多いと 受信側が大変なので、毎日一回時間を決めてそれまでの分を連結したもの*3を送ることにした。

メーリングリスト上で意見交換の後もディスカッションを続けるかどうかについては悩んだが、受講生が10人程度であればよいとしても 50人にもなればとても無理と判断し、最初の意見交換にとどめることにした。実際、2002年度の受講者は85人、2003年度も61人に上った。

○学生による優秀意見の投票

メーリングリストで配信された全員の意見メールのうち、自分以外で最も優れていると思うものを選んできて、次回の授業の出席時に投票し、 得票数の多かった人をみんなで祝福するという学生参加型システムである。

優秀意見は私も別個に選ぶが、学生が独自に選んだ意見とどう違うかも授業を進める上で貴重な材料になる。実際の授業では、はじめは食い違う場合が多いが、最後のころには意外に一致する場合が増えてくる。授業を通じて、学生たちが単に表面的な意見から深い考察力のある意見に目を開いていく様子が見てとれる。

また、このシステムは全員の意見メールを次回の授業までに読んでくることを励行させるのにも一役買っている。

○教室でもディスカッションの時間を設ける

メーリングリストでは意見交換を1回限りにしたので、他の人の意見に対する議論は次回の教室でディスカッションの時間を取って行うことにした。しかし、これは多人数の中での発言となるので、メールに比べればはるかにバリアーは高かったが、クラスメイトの意見を直に聞くという意味では欠かせない時間である。

受講のルール授業時のルール授業後のルール

授業の構成授業の実際の様子

シラバス*1で「この科目を受講する人は 学術情報総合センターまたは自分のパソコンでEメール(携帯メールは不可)及びホームページ閲覧ができるようになっておくこと」 と受講の条件を明示しているので、受講を希望する学生でできない学生はいない。

○初回の授業後、Eメールで履修申し込みをする

メーリングリスト作成のため、第1回目の授業でEメールによる履修申し込みの指示を下記のように行った。

* 履修申し込みは明朝7時までメールで受け付けます。件名を「ドキュメンタリー履修申請」とし、本文に「学部・学年・氏名」を書いて 私までメールを出して下さい。その後の申し込みやメール以外での申し込みは原則として受け付けません。

この履修申し込みメールのアドレスからメーリングリストを作成した。

○入室時に「出席サイン帳」にサインし、優秀意見の投票を行う

「出席サイン帳」とは表2に示すようなもので、履修申し込み者の学部・氏名だけあらかじめ記入しておくだけで、あとは授業のたびに 学生はその日の欄にフルネームで出席サインをする。出席票を使ったり、点呼するのに比べれば、授業の時間も割かず、後の処理も 容易なだけでなく、学生は「サインしてね」と言われるとむしろうれしそうでさえある。

表2 投票欄付き出席サイン帳

出席サイン帳

さらに、このサイン帳には「投票」欄があり、メーリングリスト*3で配信された全員の意見のうち、自分以外で最も優れていると思うものを選んできて、その番号をサインと同時に 記入投票することにした。意見メールはメーリングリスト上で到着順に連番を振られているので、投票をその番号で行えば誰に投票したかは まずわからない。読んでこなかった人は投票しないようにとも言い渡しているので、読まずに投票するのは気が引けるのか、正直に投票欄が 空白の学生もいる。

○要約を指名された人はEメールで提出する

ドキュメンタリーの番組紹介は山中さんの視聴メモ(200字程度)を前もって紹介してあるが、さらに受講生には自分でドキュメンタリーの 内容をきちんと要約するという宿題を課している。

授業期間中に1人1回当てることにしているが、誰が当たるかは毎回の授業の最後に指示することにしているので、ドキュメンタリー鑑賞中も メモは欠かせない。字数は400字程度とし、当てられた人は翌朝までに私に直接メールで送ることにした。

毎回当たるのは5〜7人であるが、その中から最も優れたものを私が選び、科目のホームページ*2で紹介することにした。

○ドキュメンタリーを観ての意見をメーリングリストに送る

教室でドキュメンタリーを観た後、学生は各自、大学または自宅から意見をメーリングリストに投稿するのであるが、まず締め切りと字数が 問題であった。

2002年度は2日後の朝7時までとしたが、資料を調べる時間をほしかったとの意見があったので、2003年度は4日後の朝7時まで締め切りを延ばした。しかし、それによってよく調べたと思えるメールが増えたわけでもなく、かえって緊張が薄れた面もみられたので、あまり日を置くのはむしろ良くないようである。

次に字数であるが、2002年度は人もいたので「400字程度」と指示した。しかし、字数をオーバーする学生も多く、もう少し書きたかったという学生も少なくなかった。2003年度は61人と少し余裕ができたので400〜600字までと少し余裕を持たせ、そのかわりに800字を超えると無効とした。

この字数制限をかけても、毎週のメーリングリストで配信されるみんなの意見*3は全部で4万〜5万字にも達するかなりな量となり、しだいにこれを読んでくるだけで精一杯という学生から他人の意見に刺激を受けて何かを始める学生までいくつかのスペクトルに別れていった。

○メーリングリストの意見の中から優秀意見を選んでくる

メーリングリストで配信された全員の意見メールを次回の授業までに読んでくることが約束であるが、読んでこなくてもすむとわかれば読まない人が多くなることが予想される。そこで考えたのが優秀意見の投票と表彰という学生参加型システムの導入である。

メーリングリストの意見メールのうち、自分以外で最も優れていると思うものを選んできて、その番号を出席時に「出席サイン帳」にサインと同時に記入投票するやり方については「授業時のルール」で述べたとおりである。

○優秀意見者の発表と表彰(5分)

前回授業の出席時に投票した結果は数日後に授業のホームページ*4で「受講生が選んだベスト意見」として最多得票者と次点の意見メールを発表する。さらにその次の授業の冒頭では最多得票者を紹介し、皆で拍手で祝福するとともに、賞品としてちょっとした駄菓子を贈るというアトラクションを行うことにした。

さらに学生の投票とは別に、私も独自にいくつかの意見メールを選ぶことにし、その結果もホームページ*4で「私の選んだベスト3」のように発表している。もちろん、学生の投票前に選ぶのであるが、授業の最初の頃はほとんど学生の投票結果とは一致しない。しかし、授業が進むうちに教室でのディスカッションが反映するのか、最後の頃には両方で選ばれるものも増えてくる。

さらに、要約、受講生の投票、私の選んだ意見のすべてに選ばれた人は「グランドスラム賞」としたが、これはさすがに2年間で1人しかいなかった。

○前回ドキュメンタリーのメーリングリストに対するディスカッション(約20分)

前回の授業で観たドキュメンタリーに対する受講生の意見はメーリングリストで配信されているが、メーリングリスト上では議論はしないことにしている。理由は人数が多いと議論が錯綜することと、特定の意見について議論が集中するとメール上では意見がエスカレートする危険があるためである。

そこで、前回の分に対するディスカッションは授業の最初に20分ほどの時間を取って行うことにした。

○今日のドキュメンタリーの簡単な紹介(約10分)

授業用プリントを作っているので、その簡単な紹介にとどめ、基礎知識等の講義は行わない。プリントで参考文献やホームページも紹介しているが、基本的には自分で調べることを原則としている。

○ドキュメンタリーの上映(約50分)

ドキュメンタリーはできるだけ50分前後のテレビ番組を録画して利用している。

この授業の発端は私の他の授業のティーチング・アシスタントをしてくれていた山中由紀さんが2000年末から始めた「生命・環境系の週刊テレビ予報 on the Web*5というホームページである。このホームページはNTTグループ系検索サイトの「環境Goo大賞2001」を受賞するほどの出来栄えであったが、そこで紹介されるテレビ・ドキュメンタリーの中に結構授業の題材になりそうなものが目についたのである。

そこで、彼女の推薦リストと視聴メモをもとに、まず自分の知らないことの多さを自覚させる作品、次にドキュメンタリーを通して考えることに適した作品という順で、12本を選定した。2003年度は2002年度の3分の2を新しい作品と入れ替えた。

また、2003年度には、テレビ・ドキュメンタリーだけではスクリーンの向こうの出来事という受け止め方になるのを懸念して、ゲストを招いて直の話を聞く機会も設けた。

○要約担当者の指名(2分)

授業の最後に、今日のドキュメンタリーの要約担当者(5〜7名)を指名する。

授業のホームページにはときどき授業の様子をまとめているが、以下に2002年度の分を示す。

○【開講のご挨拶(2002.10.11)】

新規開講でどうなることかと案じていましたが、80人もの受講登録があり、うれしい限りです。しかし、初回の授業後からメール・トラブルを起こす人が続出し、MLのお世話をしてくれてる管理人やボランティアT.Aの山中さんにはずいぶん迷惑をかけてしまいました。さいわい受講生の中から、トラブルで困ってる人の手助けを名乗り出てくれた人が2人いて助かりました。

MLは配信専用に使っていますので、みんなで作る「週刊メルマガ」と言った方がよいかもしれません。多くの人の受講の動機はドキュメンタリーだけでなく、次の意見にもあるように、このMLにもあったようです。

「何よりメーリングリストを使って人の意見が聞けるというのが魅力的です。自分だけの狭い世界に閉じこもるのではなく、他人の意見を見て視野を広げたいと思っています。」

○【授業のその後(2002.11.28)】

正式な受講登録者は結局78人になりました。全学部そろっていますが、多いのは法・文・工・理の学生で、少ないのは商・経・医・生科でした。もちろん、どの授業でも回を追うごとに脱落者が出るのは普通ですが、今日の第8回現在でも70人もの人が出席しているのには私の方が感心しています。

MLを始めてから最初に気づいたのは字数オーバーの人が多発したことです。400字を目途にという約束でしたので、3回目のMLで注意を促しました。

また、毎回のMLを読んでいるうちに気になることも出てきました。そこで4回目の授業の後、みんなに次のメールを送りました。

「意見メールももう4回目になりました。MLを読むと、みんなが教室でのドキュメンタリーを熱心に観ているのはよくわかります。しかし、4回目ともなると、かなりの人の意見がワンパターンになってきたと思いませんか。

<なんて悲惨な事件だ><企業はなんて無責任なんだ><国はなぜきちんとできなかったのか><私たちは同じ過ちを繰り返してはならない>のような評論的な意見は何回もリフレインできるものではありません。

印象や感想の域を出ない人も含めて、そろそろドキュメンタリーで取り上げられた問題を、他人事(ひとごと)として客観的に評論するのではなく、自分に引き寄せて考えるようにして下さい。」

そして、他人事としてではなく自分ならどうするかを考えてもらうために、急遽、授業予定を変更し、先輩の話を聞く機会をもちました。授業と違う日時でしたので、来れない人向けに教室では録音テープとスライド・OHPで再現しました。第6回のHPを見てもらえばわかると思いますが、この目論見は成功したと思っています。

○【授業を終えて(2002.2.9)】

<試行錯誤の連続>

こんな授業をやってみようかなと考え出したのが去年の秋ですし、それでなくとも開講直後の授業は思った通り進むはずもありませんし、とりわけこの科目は受講生参加型を目指しましたので、初めからみんなの反応を見ながら試行錯誤の連続でした。

<ドキュメンタリーの選定>

まず悩んだのはドキュメンタリーの選定でしたが、これは山中さんに負うところが大でした。彼女の推薦リストと視聴メモをもとに、まずドキュメンタリーに感心を持ってもらいながら、自分の知らないことの多さを自覚し、さらに観る・知るにとどまらず、ドキュメンタリーを通して考えることを目標に、12本並べてみました。すべての授業が終わった後、もぐりで受講されたHさんから「全体の流れとして、それぞれが互いに関連してつながり合っていて、とても良かった」と言っていただきました。自分で言うのもなんですが、私も予想以上に良い選択と順番だったと思います。

<意見メールを授業の柱に>

ドキュメンタリーを観た後、意見メールの交換を授業の柱にしたいというのは、最初から考えていましたが、実際どうなるかは予想できませんでした。とくに第1回目の授業の後、80人もの受講希望者が残ったときは、いささかパニックでした。テクニカル・アシスタントのY君とティーチング・アシスタントの山中さん(実は二人ともボランティアですが)の尽力、それに受講生の中からトラブル・コンサルタントを名乗り出てくれたO君とS君のサポートのおかげで、メーリング・リストが順調に動き出したときは私も感激しました。

<メーリングリストで皆の意見を知る>

意見メールを毎回出すようにした目的はドキュメンタリーをしっかり見ることを自覚してもらうためですが、それをメーリングリストにした目的は他人の意見を知ることです。自分の意見を言いっ放しにせず、他人の意見を知った上でもう一度考えることは、最近の若い人たちが最も苦手とすることのように思います。私はこの科目を始める前から、「公害と科学」や「科学と社会」の授業でも、そのための工夫をしてきたつもりですが、講義がメインの授業だとどうしても先生との対話に偏りがちで、学生同士がみんなで意見交換するのは困難です。

<自分で考えることを目標に>

それに対し、今回は教室でドキュメンタリーを観ることが中心で、ディスカッションにも時間をとりたかったので、私の講義をできるだけ少なくしました。そのかわりドキュメンタリーに関連した基礎的な資料をプリント(毎回A4版4頁)にまとめることに力を注ぎ、解説講義はほとんどしませんでした。その結果、自ずと受講生は観た後、プリントで復習してから自分で考えざるを得なくなったと思います。

ドキュメンタリーで取り上げられた問題に対してどう考えるべきかは、最初の頃は誰しも同じように思うことが多かったでしょうが、次第に何が正解かわからないような問題へと移っていきましたから、結構刺激的だったのではないでしょうか。

途中で、ドキュメンタリーを観る姿勢が画面の向こうの他人事(ひとごと)のようになってはいないかということが気にかかり、急遽、北野さんの講演に振り替えましたが、これに刺激を受けた人は多かったようで、やった甲斐があったと喜んでいます。

成績評価の方法学生による授業評価授業に関する学生の感想

授業者の自己評価同僚からの評価

成績評価の方法

2002年度の開講時のシラバスでは「毎週のメール5、レポート5で評価する」と書いたが、実際にはメーリングリストのウエイトが大きかったので、2003年度には「毎週のメール7、レポート3」と変え、さらに2004年度には「毎週のメール7、ディスカッション1、レポート2の割合で総合評価する」と書くことにした。

実際の成績評価を行う上ではさらに細かい評価基準が必要となるが、2003年度の場合を示すと、まず持ち点60点を与えた後、欠席は1回−5点、メーリングリスト未投稿は1回−3点、投票しなかったときは1回−2点とした。反対に、学生や私に選ばれた意見や要約は+5〜+3点、投票での総得票数はその10分の1を加点、発言は最高+5点として斟酌した。レポートの方は、最高35点、最低10点で、5点刻みとし、上記の点数に加算した。

この結果、2003年度の成績は当初の受講者61人中、最後まで完走した-53人全員が単位を修得した。成績の内訳は、80点以上が28人、70〜79点が15人、60〜69点が10人であった。

この授業に対する学生の反応を知るため、2002年度と2003年度の授業の終わりに同じ質問でアンケートを取ってみた。

Q.授業の難易度を「楽、やや楽、普通、やや大変、大変」の5段階評価で表すと、受ける前の印象と受けた後の感想はそれぞれどのくらいですか?

授業を受ける前の印象 授業を受けた後の感想

授業を受ける前の印象             授業を受けた後の感想

この授業では、ドキュメンタリーの鑑賞だけでなく、要約やメーリングリスト、投票、レポートなど、いろいろあるが、授業の難易度とはそれらを全て含んだ評価である。グラフで一目瞭然であるが、受ける前の平均が「普通」だったのに対し、受けた後は「やや大変」に変わっている。シラバスを読んで選択した人がほとんどであるが、思っていたより大変だったというのが共通の感想のようである。

Q.授業への満足度は、「大いに満足、ほぼ満足、普通、やや不満足、不満足」の5段階評価でどのくらいですか?

授業への満足度

授業への満足度の平均は「ほぼ満足」で、「満足」と「ほぼ満足」を合わせると、8割にも達する。2003年度に初めて「不満足」の学生が1人出たが、メーリングリストをほとんど読んでいないなど学生参加型の授業を理解していない学生であった。「やや不満足」の学生は主としてディスカッションがいまいちという感想であった。

Q.この授業でやった次のそれぞれについて、「大いに良かった、良かった、普通、あまり良くなかった、良くなかった」の5段階評価で書いて下さい。

5段階評価

シラバスに「ドキュメンタリーの鑑賞をメインに」と書いたので、受講生の最大の関心がドキュメンタリーにあることは当然であったが、用意したドキュメンタリーの内容と授業での順番が良かったかどうかは、この授業に対する学生評価のポイントであった。さいわい、2年間とも平均値が「良かった」を超え、「大いに良かった」に近かったのはうれしい評価であった。これも山中さんの情報提供に負うところが大であった。

次いで授業プリントが高い評価を得たことは予想外であった。毎回A4版で4頁立ての授業用プリントを用意したが、その内容は番組のホームページや番組紹介の記事などから編集した番組紹介の頁と、ドキュメンタリーのテーマに関する基礎的知識や資料を編集した学習用の頁からなり、さらに参考図書や参考ホームページを紹介して自学自習を促した。授業では講義をほとんど行わないので、この授業プリントはその代わりでもあった。

メーリングリストは参加型授業のこの授業に学生が参加する最大のツールであるから、平均値が「良かった」という結果には満足しているが、「大いに良かった」という人も多い反面、「普通」の人も多いのが気にかかる。これは後で紹介する自由記述の中にも出てくるが、毎回投稿しなければならないばかりか、毎回次の授業までに全員の分を読んでくるという宿題にアップアップの人も少なくなかったせいと思われる。ちなみに2003年度に授業の中間で取ったアンケートではメーリングリストを「全部見てる」という人は41%で、「ときどき欠ける」という人も41%であったから、そのアップアップぶりが分かる。

ホームページの方は2003年度の中間アンケートでは35%の人が「まだ見ていない」と答えていた。メーリングリストでアップアップの人はとてもホームページどころではないということであろう。

優秀意見の投票と表彰の評価もあまり高くないが、メールを未提出の人やメーリングリストを読んでこなかった人は投票できないことにしているので、その人たちにとっては参加感が薄かったからと思われる。

ディスカッションは授業の構成要素の中では最も評価が低かったが、これは受講の動機と大いに関係がある。受講の動機の第1はいうまでもなくドキュメンタリーの鑑賞で、第2がメールやホームページなどのインターネットの利用であった。次いで、第3が私がやっている授業だから、第4が単位に困っていたからで、「ディスカッションができるから」は最も少なかった。

とはいえ、何とかディスカッションも盛り上げようといろいろな工夫を試みたが、2002年度も2003年度もディスカッションへの参加度はいまいちであった。

まず、大学が行う授業評価アンケートの自由記述欄に書かれた意見を紹介する。

○この授業のツールについて
  • 色々なドキュメンタリーを観れて、視野が広がった。
  • 授業のホームページの内容も充実していて、毎回見るのが楽しかったです。
  • コンピューターを使う講義(授業)であったため、キーボードを打つ技術や、メールの送信の仕方、その他コンピューター操作に非常に強くなった。
  • メールを使って意見を出すというのは、実に斬新で画期的であると思った。
  • みんなの意見がメーリングリストという形で読めたのがよかった。
  • 口頭だと意見はなかなか言えないけれど、メーリングリストというものの上で色んな意見が言えたし、聞けたし、楽しかったです。
  • 毎週自分の意見を文章に書き、他の人の意見を読んだということは非常に有意義でした。授業を毎回楽しみにしていました。
  • 他の授業では、その授業を受けた感想などは自分の中で解決して終わっていたが、この授業ではディスカッションを通して他の人の意見を聞くことができてよかったです。
○メーリングリストについて
  • パソコン持ってない人にとって、その日のうちにメールを出すのは調べる余裕もないし、きつかった。
  • 良かったと思います。ただ、次の日までに意見を提出だったので少ししんどかったかな。もう少し提出期間を延ばしてもよかったのでは?と思った。
  • 受講者が多かったため、MLを読むのが大変だった。似た意見が続くとつらい。
  • 少し人数が多すぎて、メーリングリストを読むのが大変でした。
○ディスカッションについて
  • メーリングリストでみんなの意見を知れたのはよかった。もっとディスカッションがさかんにできればよかったと思う。
  • 授業前のディスカッションが少しやりにくかったです。
  • とにかく大変だった様に思う。たしかに色々なことは知れたが、ディスカッションはあまり魅力は感じない。
  • やはりディスカッションが成功したとは言えないと思います。みんな発言はしたかったんだと思います。
  • ディスカッションで生徒の意見以上に、先生の主張が余りに強すぎたように感じる。
  • ディスカッションをスムーズに進めようとして下さる木野先生の発言が逆に皆の発言意欲を失せさせてしまったような気もします。
  • ディスカッションができない時は、メーリングリストではなく掲示板などに意見を投稿してみたらいいのではないでしょうか?
○投票について
  • 投票で表彰されてチョコをもらったのがうれしかった。
  • 少数意見を大切に、という観点を重視するということの大切さを解く一方で、投票1位に表彰するというのは、どうかと思った。
  • ずっと消化不良で苦しかったです。意見メールの投票がプレッシャーでした。(投票される側面で)
○この授業全般について
  • 他の授業にはないやり方で行われていたので、新鮮で面白かったです。
  • 楽しくてとても有意義な授業だったと思います。
  • とても楽しく興味深い授業でした。どうもありがとうございました。
  • 視野を広げたり、知識を得たり、大変有意義な授業だった。
  • 様々な問題について、他の受講生の意見もふまえ、深く考えることができた。
  • 他の人の意見を知ることで、なるほどと思ったり、あらためて自分の考えを深めたりでき、とてもよかった。
  • “自分で考える”ということを今更ながら学んだ気がする。とても有意義な授業でした。
  • この授業で少しですが鍛えられたような気がします。
  • 大満足。こんな授業がもっと増えれば。

次に、2002年度のレポートにつけられていた感想を紹介する。

○この講義を通して

「ドキュメンタリー・環境と生命」という講義は、今までにないタイプの講義であった。もちろんこれまでにも環境問題を扱った講義は多々あったと思う。しかし、どうしても一方的な講義形式がほとんどであり、「講義を受けて、はいおしまい」という感じがぬぐえなかった。本人の関わろうとする意欲自体に問題があるのかもしれないが。

今回のような形式の講義では、なかば強制的に自分の意見をあらわすことが要求される。また、メーリングリストというシステムを使うことで、同じ学生の意見を聞くことができるという点で、大変有意義であったと思う。人の意見を聞くことは何より大切だ。それを見て、自分の中でもう一度問題について考えることができる。考えっぱなしで終わるよりも、ずっと頭に残る。他人の意見を読んで、「この人はすごいなぁ、ここまで考えてるんや」とか、極端な話「ふざけんなよ、納得できるか」などと感じることもあった。人の意見を聞き、発言することで、講義の内容が自分のものになっていくようで、非常に楽しかった。

学生は、多分先生方が考えておられるよりずっと色々なことを考えているのだと思う。「最近の学生は」といった声もよく聞く。黙っていたら、恥ずかしがっていてはいけない、そういう意見ももっともである。しかし、それだけにこだわっていたのでは学生の意見を拾い上げることはできない。メールという媒体を通し、学生の意見を拾い上げ、公表してくれた木野先生の講義形式には感謝している。  (文学部3回生 ○○ 悟)

さらに、大学案内の冊子に載った受講生の感想を紹介しておく。

○主体的に学ぶ姿勢が身に付いたことが大きな収穫

普段ドキュメンタリーを見る機会の少ない私にとって、毎週待ち遠しい授業でした。この授業で一番よかったのは、意見メールやディスカッションを通じて、他の受講生の意見を知ることができたことです。同じドキュメンタリーを見ても考えることはさまざま。自分の意見とは違う意見を知って、再びその問題について考え直し、自分の考えを深めることができました。また、授業が終わった後、ドキュメンタリーを通して知り得た問題についての本を読んだり、番組を見たり、と主体的に学ぶ姿勢が身についたことも私にとって大きな収穫です。  (文学部3回生 ○○那恵)

この授業の構想を思い立ったのは2001年後期になってからのことで、2002年度の全学共通科目のシラバスにも間に合わなかったくらい急な開講であった。Eメールとインターネットができることを条件にしたので、学生からのクレームが来ないかとか、はたして受ける学生はいるのかなど、開講まで予想が付かなかったが、すべて杞憂に終わり、むしろメーリングリストの適正規模を上回る学生数に悩んだほどである。

大学での授業の大半がいまだに高校までの授業と同じように教員から学生への知識伝授型の一方向型であることに疑問を抱き、教員と学生による双方向型の授業展開を主張し、みずからいくつかの授業を実践してきたが、いっそのこと教員による講義をなくした授業ができないものかと考えたのがこの授業の発端であった。

テレビ・ドキュメンタリーを見るという行為は自宅で日常的に起こる出来事であり、それを教室に移しただけである。その日に見る番組の情報は新聞で番組表を見るのと同様、授業の前までタイトルと短い番組案内しか知らされない。教室では関連情報をまとめたプリントが与えられるが、精読する間もなくいきなりドキュメンタリーが上映される。いったい何の話?と頭の中はドキュメンタリーの話題を理解するのに必死になる。

観終わったら授業は終わりで、あとは自分でプリントを参考に意見メールを書いて送るわけだが、プリントだけに頼らず自力で少しは調べよと最初に指示している。文献やインターネットで調べた学生と何もしなかった学生の意見メールの違いは一目瞭然であるが、それは学生や私の選んだベスト意見にも反映される。

教室では前回のメーリングリストの意見に対するディスカッションの時間があるが、ここでもちゃんと読んできた学生と適当にすませてきた学生の差は歴然で、顔を見ればわかる。しかし、ディスカッションは学生の自発的な発言を待つのが原則なので、言いたいことも我慢して待つが、ときには待ち切れずに話し始めることも多い。学生たちのなかには発言するつもりはあったがなかなか言い出せなかったと述懐する人もいるので、まだ私の我慢が足りないのかもしれない。ディスカッションだけは今後まだ工夫の余地が多いと自覚している。

教員からの講義で知識を与えられるのではなく、学生が自分で問題を調べ、それについてクラスメイトと意見を交換し合い、さらに自分を高めるというこの授業の目的はほぼ達成されたと考えるが、そのためにはドキュメンタリーの選定、授業プリントの作成、メーリングリストの運営、ホームページの作成と更新など、教員にとっての負担は少なくはない。今回は幸いにもボランティアの協力者がいたので助かったが、この種の授業を本格的に実施するには制度的な補助が不可欠であろう。

大阪市立大学では2000年度から、全学共通教育の授業のあり方を教員がともに考え、授業の改善に役立てていくために、「教員のための公開授業」が実施されている。平常の授業の1コマを教員の参観に供し、授業終了後に担当教員と参加教員の間で授業の進め方などについて意見交換するものである。

この授業でも2002年12月19日の授業を公開授業に供したが、その際、参加者に書いてもらうアンケートの中に「この公開授業に参加されて、どのような感想・ご意見をお持ちになりましたか」という項目があるので、これを同僚からの評価に代えて紹介する。なお、この日の参加者は教員14人、職員1人であった。

  • ディスカッションで学生がさまざまな意見をいうのにおどろき、うれしく思った。女子学生の意見がそれぞれたのもしい。出生前診断の是非と中絶という問題は正答が出るはずのない問題だという認識も必要だろうと思ったが、木野先生がまとめの部分でそれに言及されたので一安心だった。(文学部教員)
  • 初めはややまどろっこしく感じましたが、意見がわき上がってくるまで待つというのは良い方法だと思います。また、意見を求めてもやり過ごそうとする学生は多いですが、同級生たちに自分の意見に対してコメントされることは、本人にとっても自分の考えをより確実なものにすることができるでしょう。本日は「他人のコメントに対して、受け流してはいけない」という先生やTAの指導は大層感じるものがありました。(工学部教員)
  • 予想はしていましたが、自由討論など他の講義にあまり見られないもので興味深かったです。ただ、各学生が意見を言いぱなしという点が気になりました。(この点は木野先生も指摘されていましたが)一つには、発言者の意見内容が他の人によく伝わっていなかったのではないかと思います。司会の方または木野先生が要点を取りまとめられた方が、後への議論へつながったのではないかと思います。(理学部教員)
  • ディスカッションを活性化し、受講生の“思考”を深めようとされる努力がすばらしかったと思います。技術的には工夫の余地があるとは思いますが、すべり出しとしては上々ではないかと思います。(人権問題研究センター教員)
  • メーリングリストを活用していることで密度の高い授業になっていると思いました。先生の準備はたいへんだと思いますが。ヴォランティアTの方が適切なアドヴァイスをしておられてよかったです。出しゃばらず、必要なときにはちゃんと役目を果たす、すぐれた司会役でした。(文学部教員)
  • マスメディアのドキュメンタリーを授業の中に組み込み、あわせて学生の意見発表をうながす試みは、派生的にいろいろとよい効果を生み出すと思います。自分で考えることはもとより、そのために必要な読書の大きな動機にもなるでしょう。教養教育の一つの試みとして貴重なものだと思います。(工学部教員)
  • ビデオ視聴、メーリングリストへの投稿、教室でのディスカッションを組み合わせた、たいへん興味深い授業の試みだと感じました。クラス規模が大きいので、教室でのディスカッションでは、発言する人が小数に限られてしまい、惜しい。前に登壇しなくても意見が言えると、発言のためのハードルが少しは低くなるかもしれませんが、受講生が全員前を向いているので、そのやり方にも難点が出てきます。(文学部教員)
  • メーリングリストの学生の意見にびっくりしたが(よく書けているという意味で)、授業の発言がむずかしい(私の授業と変わらない)のを見て、納得した。とすると、メーリングリストでの意見交換をすることは、授業の内容を発展させる意味で重要に思える。しかし、メーリングリストの意見を授業に反映させる技術と人材、また教材の厳選など、自分の授業に反映させるのには、大きなハードルがあるようにも思える。(生活科学部教員)