倫理学概論T・U・V
文責: 小野原 雅夫
倫理学概論T・U・V
福島大学教育学部・学校教員養成課程・社会科学系教育コースの選択必修科目(「倫理学概論II」は同・生涯教育課程・環境科学教育コース の 必修科目にも指定されています)。それぞれ半期2単位。1年次生以上対象。中学校社会科、高等学校公民科の教員免許所得のために必要な科目 (上記学部、コース学生以外にも 他学部、他コースから免許所得のため受講している学生が3分の1くらいいます)。平均受講者数80名前後の 講義型科目
注:
福島大学教育学部は2004年度後期から改組して人間発達文化学類に変わります。それに伴い上記科目も随時廃止されていくことになりますが, 名称や内容を変えながらも,以下で紹介する授業システムは維持していくつもりです。
小野原 雅夫 (福島大学人間発達文化学類助教授)
岩崎 紀子 (福島大学人間発達文化学類助教授)
特に決めていません。参考書は授業中に紹介しています。
それぞれのテーマは、以下のように定めています。
- 倫理学概論T 「自由と幸福の倫理学」
- 倫理学概論U 「科学技術と環境の倫理学」
- 倫理学概論V 「戦争と平和の倫理学」
扱うテーマはそれぞれ異なりますが、共通の目的として、学生が倫理学的な問題を「自分で考える」ようになってもらいたいと願っています。 学生に対してはこの授業の目的を次のように提示しています。「自分が抱いている『思い』や『感じ』を、ことばで表現したり、他人の思いや 感じに耳を傾けたりすることを通じて、『考え』へと深めていく。倫理学のテーマに関して学生たちはそれぞれ自分なりの偏った知識や 強固な意見をもっていますが、ふだんはあまりそれらを意識していません。まずは、表現してみることを通じて自らの出発点を確認した上で、 教員からの講義を聴いたり、他の学生たちの意見に耳を傾けたりすることによって、自分の立脚点から一歩外へ踏み出してもらうことが 当面の目的であり、できることならば、より深く、より客観的に考えるためにはどうしたらいいかというところまで学んでもらえればと 思っています。
これまではずっと私が一方的に喋り板書するという従来型の「チョーク&トーク」というスタイルで講義をしてきましたが, そのやり方ではなかなか学生たちが「自分で考える」ようにはなってくれません。FDアンケートの結果からもその点は明らかでした。 そういう悩みを抱えていたところ,2002年度に授業研究者である岩崎紀子氏と知り合い,後期の授業を参観してもらうことになりました。 悩みを聞いてもらったり,自分の授業に対する客観的な講評をうかがったり,この「大学授業ネットワーク」その他さまざまな参考文献や ホームページ等を紹介してもらったりする中で,自分の授業を変えていく決心が次第に固まってきました
そこで,2003年度前期から新たに2つの手法を取り入れて授業を展開してみることにしました。私はそれを「ワークシート&フィードバック」, 「グループ・ディスカッション&プレゼンテーション」と名づけています。まず,ほぼ毎回の授業でワークシートに書き込むという作業を 学生に課しています。また,半期の講義の中で2,3回,グループ・ディスカッションを行っています。この2つの試みを通して,学生たちを 何とか「主体的な学び」へと導けないかと試行錯誤しているところです。
(1)2つの機能を持つワークシートワークシートを使用する主要な目的は,言語化・文章化を通して学生が自ら考える機会を確保し,学生の学びを深めていくプロセスを 支援することです。その目的を達成するために,ワークシートには大きく分けて2つの機能を与えています。第1に,あらかじめ学生に 予備的な質問を投げかけそれについて考えさせておくことによって,その後の教員からの説明や解説をより深く理解できるようにするという, 予想的・予習的機能です。第2に,その日ないしは前回の学びを振り返って自らが何を学んだか,そこから発展してどのような疑問や関心を 抱いたかを確認するという,回顧的・復習的機能です。様式としては,A4用紙1枚の裏表に4〜6問程度の質問事項と記入欄を設けるという 形にしました。たいていの場合,そのうちの1〜2問が予想的機能のための問いであり,残りが回顧的機能のものですが,学生に対しては特に その点を明示することはせず,1枚のワークシートの中に両者を混在させています。説明の便宜のために前者の問いに当たる部分を「 シンキング・ワークシート」、後者の問いに当たる部分を「リフレクション・ワークシート」と名づけておくことにします。
シンキング・ワークシートは,学生にとって学びの出発点です。倫理学が扱うテーマに関しては,大体みんなマスコミ等を通じて 聞きかじったことがあり,それによって何らかの思いや感じや先入見をもっているはずなのですが,いざそれをことばにして書けと言われると, 意外と言語化するのは難しいということに気づきますし,言語化していく過程で,初めて自分がこんなことを考えていたんだということに 気づいたり,自分が思ってもいなかったようなことに考えが至ったりします。それらをことばで表現することによって,自分の出発点を 確認してもらうというのがシンキング・ワークシートの働きです。そして,その後は自分の考えと引き比べながら教員からの講義を 聴くことになるので,集中力も理解力も増すことになるのではないかと期待しています。
そこで学んだことを,リフレクション・ワークシートでもう一度振り返ることによって,さらに定着をはかり,また講義の中で わからなかったことを質してもらいます。ワークシートの裏側はだいたいそうした問いによって占められています。それとは別に, ある思想について学んだ後で,それについていいか悪いか価値判断を下してもらい,その理由も書いてもらうというように,たんに受け身的に 聴いて終わりではなく,その思想は自分にとってどういう意味をもつのかというところまで考えを深めてもらうための問いも用意しました。 これもリフレクション・ワークシートの果たす重要な機能です。なお,講義が進んでいくにつれて,前回の学習内容を回顧しながら, そこからさらにその問題点を予想するといった,リフレクション・ワークシートとシンキング・ワークシートの両機能を兼ね備えたような問いも 増えていきました。
(2)通常の場合の授業の組み立て[1] シンキング・ワークシートへの記入(5〜15分)
(例)
「自由とは何だと思いますか? 自由の定義をいろいろ考えてみてください。定義がうまく思い浮かばない 場合には,どういう場合に自由/不自由だと感じるか,具体的なケースをいろいろ挙げてみてください。」「科学と宗教はどこがどう違うのか, 思いつくかぎり列挙してください。」「戦争とは何ですか。戦争を定義してください。」etc.
[2] 教員からのレクチャー(15分〜90分)
[3] リフレクション・ワークシートへの記入(5〜10分
(例)
「前回個人やグループで考えた技術の倫理と,今回教員から講義された技術の倫理とを比較して気づいたこと,考えたこと,疑問に 思ったことなどを書いてください。」「カントの永遠平和論にあなたは賛成ですか反対ですか、その理由も記してください。部分的賛成・ 反対の場合はどの部分に賛成でき、どの部分に反対なのか、その理由も記してください。」
「今日の自己評価(5段階評価)
- 自分の意見(思いや感じ)を言葉で表現することができたか。
- 今日の授業内容についてよく理解することができたか。
- 今日の授業内容について疑問をもったり、さらなる関心をもつことができたか。
「今日の授業を受けて懐いた疑問や関心について、自由に書いてください。」「この授業に対する要望や、今日の授業に対する感想を 自由に書いてください。」etc.
ワークシートは毎回回収し,目を通した上で次の回に返却します。学生からの要望もあって,提出されたワークシートには,基本的に 1回2点の出席点を与えることにしています。ただし,各設問に対してびっしりと記入してくる学生もいる一方で,まったく未記入とか, ただ一言「難しかった」としか書いていないような場合も最初のうち見受けられたので,最近では,よく書けているものには+1点, 全然書いていないものは−1点という幅で採点するようにしています(これを続けているとみんなだんだん色々と書いてくれるようになります)。 また,面白い意見,重要な視点などにアンダーラインを引いたり,誤字・脱字を訂正したりということは全員のワークシートに対して行っています。 学生から疑問が出された場合には,特定の学生だけが抱いているような個人的な疑問に対しては直接書き込むことによって答え,多くの学生から 共通に出されている疑問に対しては,次回の授業の最初にまとめて解説の時間を設けるようにしています(5〜45分)。
記入例:倫理学概論II」ワークシート8表・ 裏
(1) グループ・ディスカッションシンキング・ワークシートのあとに教員からの講義へと進んでいくばかりでなく,学生どうしで意見を交換するという機会も数回設けています。 それがグループ・ディスカッションです。ワークシートのように紙に自分の意見を書くばかりでなく,生身の人間に対して自らの意見を表明し, リアルタイムでそれへの返答が返ってくるという体験の場を提供したかったのです。特に主観的な思いや感じの中に閉じこもりがちの現代の 若者にとって,他人の意見に直接耳を傾けることは,自らの意見を相対化して自分の思考を拡張していくために必要なのではないかと考えています。 ただし,中規模以上の講義型授業の場合,全体での話し合いや代表者によるディベートという方法だと,なかなか全員に参加してもらうことが 困難です。そこでクラス全体を5〜6人ぐらいずつの小グループに分け,グループ内でディスカッションしてもらうことにしました。こうすれば, 中規模以上のクラスでも,全員に話したり聞いたりという体験をさせることができますし,それによって,ふだん話せない子も 話さざるをえなくなり,その意味での訓練になります。
グループ・ディスカッションを行うときは,可動式机のある空き教室に移動し,各人が顔を突き合わせて座れるように机を向かい合わせて 座ってもらいます。グループ分けはあらかじめ教員が行っておきます。グループ作りを学生たちに任せてしまうと,ただでさえ少ない時間がより 圧迫されてしまいますし,どうせ話し合いをさせるなら親しい仲間うちだけではなく,異質な他者も交えた話し合いを経験してもらいたいという 2点の理由から,こちらであらかじめ構成員の男女・学年・専攻分野等のバランスが均等になるようにグループ分けしておきました。
たいていの場合,最終的にグループで1つの結論にまとめることを求めています。ただたんに互いの意見を交換して相対化しあうだけでなく, 合意形成の努力をも体験してもらい,自他の共通点や相違点を確認しあったり,その上で客観的・普遍的立場を模索してもらいたいと 考えたからです。グループ・ディスカッションは次のプレゼンテーションの段階も含めて,90分1コマの授業の中で完結する必要があるので, 十分な話し合いの時間が取れず,結論をまとめるのにどこのグループも苦労しているようですが,そもそも結論の出しにくい問題を 選んでいるので,たぶんいくら時間をかけても同じことだろうと思います。
(2) プレゼンテーション1つにまとめた結論は代表者によってクラス全体へと報告してもらいます。これは,プレゼンテーションをすると決めておくことで, グループ・ディスカッションの緊張感を高めようというのが一番の目的です。もちろん,それぞれのグループでのディスカッション内容を クラス全体で共有することによって,さらに各人の思考を拡張してもらおうという意図もありますし,また,ディスカッションした 内容よりもどのようにプレゼンテーションするかということの方が意外と重要であるということも学んでほしいと考えています。
(3) グループ・ディスカッションを行う場合の授業の組み立て[1] シンキング・ワークシートへの記入(5〜10分,または前回の宿題)
(例)
「環境倫理学への反論に対して再反論せよ。」
「戦争に対して (1) 全肯定,(2) 部分肯定/部分否定,(3) 全否定という3つのうちいずれの立場に立つかを明らかにした上で, なぜその立場に立つことが
正しいと言えるのか,できるだけ詳しく論証しなさい。その際,他の2つの立場から加えられうる反論や 再反論も予想した上でそれにきちんと答える
こと。」etc.
[2] グループ・ディスカッション(25〜50分)
(例)
「[1]と同じ問いに対してグループで話し合い、1つの意見にまとめた上で、代表者が発表すること。」
[3] プレゼンテーション(各グループ2分×12〜14グループ)
[4] リフレクション・ワークシートへの記入(5〜10分)
(例)
「グループ内のディスカッションでは,誰のどんな意見に,感心したり,新たな発見をしたりしましたか。その理由も記してください。」
「グループ発表では,自分のグループ以外のどのグループの発表に一番感心したり,納得したりしましたか。その理由も記してください。」
「グループ発表では,自分のグループ以外のどのグループの発表が,一番上手なプレゼンテーションをしていると思いましたか。 その理由も記してください。」
今日の自己評価(5段階評価
- 自分の思いや感じを言葉で表現することができたか(ワークシートやグループ・ディスカッションにおいて)。
- 他人の思いや感じに耳を傾けることができたか(グループ・ディスカッションやグループ発表において)。
- bを通じて,自分の思いや感じを別の視点から相対化することができたか。
- a,b,cを通じて,自分の思いや感じを「考え」へと深めることができたか。」etc.
設問によってはグループ・ディスカッションという形式よりも,ワークショップ形式で話し合わせた方がいい場合があります。 グループの意見を1つにまとめるというよりは,できるだけ多くのアイディアを出しあって,みんなでそれを分類・整理してみるのです。 例えば,「技術者が自らの責任を果たしていけるようにするためには,『技術の倫理』としてどのようなものが必要だと思いますか。 各自思いつくかぎり列挙してみた上で,それをグループ内で分類・整理してみてください」とか,「自由とは何だと思いますか。自由の定義を いろいろ考えてみた上で,それらをいくつかのグループに分類し,相互の関係を図示してください」などの場合です。
KJ法で本格的にやろうとするならば,模造紙とポストイットとサインペンやマジックなどを用意する必要があります。(1) まず各人が 自分の意見を、ポストイット1枚に1つずつすべて書き出す。(2) グループ全員のポストイットを持ち寄り、模造紙の上で整理、分類していく。 (3) 分類された項目にタイトルをつけ、相互の関係などを図示しつつ、模造紙を作品として仕上げていく。以上のような手順になります。
※この写真は相馬看護専門学校で実施したときのものです。
しかし,慣れてくると,各自のワークシートとあとは各グループにA3の紙を数枚渡しておくだけでもやれるようになってきました。 ただしワークショップを行う場合はどうしてもプレゼンテーションの時間を取る余裕がありません。各グループから作品を提出してもらって, それらをこちらで成果報告としてプリントにまとめて,次回に配布するという方法で今は何とか対処しています。
記入例
新しい手法を導入したことによって,少しはみんな「自分で考える」ようになってきたのではないかと感じています。学生の 作業がありますので,彼らはそうそう突っ伏して寝てばかりはいられませんし,毎回毎回書くことを強制していると,全然書けなかった 学生もじょじょにいろいろと書けるようになっていってくれます。以前は出席者も最後には半分くらいまで減ったりしていましたが, 2,3割減くらいでおさまるようになってきました。期末試験の答案を見ていても,明らかに量と質が向上しているように思われ,ほんの 数行しか書いてないような答案や,板書ノートをそのまままとめたような答案はほとんどなくなりました。
FDアンケート結果を見てみると,授業理解度が少しずつ上がってきており,これは授業者として最も うれしい結果です。しかし,それはワークシートを導入するに際して当初こちらが想定していなかった,思いがけぬ効果のおかげであるように 思います。リフレクション・ワークシートに目を通していて気がつくのは,学生たちは意外なほど,私の講義内容をまちがって理解していることが 多い,ということです。こちらがある文脈の中で当たり前と思って話していることが,その文脈を知らないために,私の言葉の断片を うまいぐあいに繋ぎあわせてまったく逆の意味に理解しているというようなことが,しばしばあるのです。これは当然,私の責任です。 私の説明が十分クリアーでなかったということであり,また,無意識のうちに自分の知識を前提とした話し方をしてしまっていたという ことでもあります。ワークシートを導入するまで私はこのことに気づかないまま授業をし,期末試験の時になんでみんなこんなにいい加減なことを 書くんだろうと憤慨していたわけですが,ワークシートを導入したことによって,学生がどんな誤解をしているのかを知ることができ, 次の回にはその誤解を解くことができるようになったわけです。授業理解度が上がった背景にはこうしたこともあったのではないでしょうか。
福島大学「授業改善のための学生アンケート」結果(2001年〜2003年)
- ※2002年度までは「チョーク&トーク」による授業,2003年度以降新しい手法の取り入れ
- ※2004年度前期の授業のアンケート結果は現在集計中
質問内容(学生の所属・学年や施設・設備等に関する質問は省略)
III. この授業及び担当教員について次の各項目について5段階で評価してください。
- (7) 授業への熱意が感じられた。
- (8) 学生への対応は適切であった。
- (9) 授業の準備がしっかりなされていた。
- (10) 話は聞き取り易かった。
- (11) 板書・OHPなどは見やすかった。
- (12) 教科書・参考書・資料などは適切であった。
- (13) シラバスに沿って授業が行われた。
- (14) 授業の内容はよく理解できた。
IV. 教育環境について5段階で評価してください。
- (16) 授業の場では学習する雰囲気は保たれたか。
V. 総合的にみてこの授業内容に満足しましたか。
| (7) | 4.355 | [(1)×37名 (2)×31名 (3)× 6名 (4)×2名 (5)×0名] |
| (8) | 3.868 | [(1)×20名 (2)×32名 (3)×19名 (4)×4名 (5)×1名] |
| (9) | 4.171 | [(1)×31名 (2)×27名 (3)×18名 (4)×0名 (5)×0名] |
| (10) | 4.474 | [(1)×44名 (2)×26名 (3)× 4名 (4)×2名 (5)×0名] |
| (11) | 3.789 | [(1)×23名 (2)×27名 (3)×16名 (4)×7名 (5)×3名] |
| (12) | 3.547 | [(1)× 9名 (2)×26名 (3)×37名 (4)×3名 (5)×0名 無回答×1名] |
| (13) | 3.493 | [(1)× 9名 (2)×22名 (3)×42名 (4)×1名 (5)×1名 無回答×1名] |
| (14) | 3.587 | [(1)× 9名 (2)×35名 (3)×25名 (4)×3名 (5)×3名 無回答×1名] |
| (16) | 4.373 | [(1)×39名 (2)×29名 (3)× 4名 (4)×2名 (5)×1名 無回答×1名] |
| V. | 3.887 | [(1)×14名 (2)×39名 (3)×14名 (4)×4名 (5)×0名 無回答×5名] |
| (7) | 4.275 | [(1)×19名 (2)×27名 (3)× 5名 (4)×0名 (5)×0名] |
| (8) | 3.922 | [(1)×13名 (2)×23名 (3)×13名 (4)×2名 (5)×0名] |
| (9) | 4.196 | [(1)×16名 (2)×29名 (3)× 6名 (4)×0名 (5)×0名] |
| (10) | 4.529 | [(1)×27名 (2)×24名 (3)× 0名 (4)×0名 (5)×0名] |
| (11) | 4.059 | [(1)×19名 (2)×19名 (3)×10名 (4)×3名 (5)×0名] |
| (12) | 3.471 | [(1)× 7名 (2)×14名 (3)×26名 (4)×4名 (5)×0名] |
| (13) | 3.863 | [(1)×12名 (2)×20名 (3)×19名 (4)×0名 (5)×0名] |
| (14) | 3.706 | [(1)× 8名 (2)×24名 (3)×15名 (4)×4名 (5)×0名] |
| (16) | 4.314 | [(1)×19名 (2)×29名 (3)× 3名 (4)×0名 (5)×0名] |
| V. | 4.078 | [(1)×14名 (2)×29名 (3)× 6名 (4)×2名 (5)×0名] |
| (7) | 4.25 | [(1)×14名 (2)×22名 (3)× 4名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (8) | 4.2 | [(1)×13名 (2)×22名 (3)× 5名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (9) | 4.2 | [(1)×15名 (2)×18名 (3)× 7名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (10) | 4.575 | [(1)×24名 (2)×15名 (3)× 1名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (11) | 4.2 | [(1)×15名 (2)×20名 (3)× 3名 (4)× 2名 (5)× 0名] |
| (12) | 4.0 | [(1)×10名 (2)×20名 (3)×10名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (13) | 4.0 | [(1)×10名 (2)×20名 (3)×10名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (14) | 4.05 | [(1)×12名 (2)×18名 (3)×10名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| (16) | 4.575 | [(1)×23名 (2)×17名 (3)× 0名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| V. | 4.282 | [(1)×14名 (2)×22名 (3)× 3名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×1名] |
| (7) | 4.776 | [(1)×38名 (2)×11名 (3)× 0名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (8) | 4.551 | [(1)×29名 (2)×18名 (3)× 2名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (9) | 4.388 | [(1)×23名 (2)×22名 (3)× 4名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (10) | 4.776 | [(1)×39名 (2)× 9名 (3)× 1名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (11) | 4.143 | [(1)×22名 (2)×13名 (3)×13名 (4)× 1名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (12) | 4.25 | [(1)×22名 (2)×16名 (3)×10名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 2名] |
| (13) | 4.064 | [(1)×18名 (2)×17名 (3)×10名 (4)× 1名 (5)× 1名 無回答× 3名] |
| (14) | 4.367 | [(1)×22名 (2)×23名 (3)× 4名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (16) | 4.6 | [(1)×30名 (2)×20名 (3)× 0名 (4)× 0名 (5)× 0名] |
| V. | 4.612 | [(1)×31名 (2)×17名 (3)× 1名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答× 1名] |
| (7) | 4.532 | [(1)×39名 (2)×17名 (3)× 6名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| (8) | 4.290 | [(1)×29名 (2)×23名 (3)× 9名 (4)× 1名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| (9) | 4.419 | [(1)×33名 (2)×22名 (3)× 7名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| (10) | 4.532 | [(1)×39名 (2)×17名 (3)× 6名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| (11) | 4.129 | [(1)×27名 (2)×20名 (3)×12名 (4)× 2名 (5)× 1名 無回答×2名] |
| (12) | 3.932 | [(1)×17名 (2)×21名 (3)×21名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×5名] |
| (13) | 4.051 | [(1)×19名 (2)×25名 (3)×14名 (4)× 1名 (5)× 0名 無回答×5名] |
| (14) | 4.113 | [(1)×23名 (2)×27名 (3)× 8名 (4)× 4名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| (16) | 4.5 | [(1)×38名 (2)×17名 (3)× 7名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×2名] |
| V. | 4.339 | [(1)×31名 (2)×21名 (3)×10名 (4)× 0名 (5)× 0名 無回答×2名] |
- シンキング・ワークシートの設問や,ディスカッションのテーマなど,考えさせる問いの厳選が重要ですが,これがなかなか難しく, ピントのはずれた問いを出してしまうと,1日の講義がすべてだめになってしまう場合があります。
- ワークシート準備の都合上,毎回毎回その日の内容をきちんと完結することが求められるので,下手をすると時間をオーバーして しまったり,そこまでいかなくともリフレクション・ワークシートに記入する時間を十分に取れなくなってしまう場合があります。
- ワークシートへのレスポンスはできるだけ手をかけないようにと心がけていますが,それでもやはりその負担は相当なものがあります。
- グループ・ディスカッションは時間が足りないせいもあると思いますが,教員の側が期待しているようなレベルの議論に達してくれません。 グループ・ディスカッションを行うことに対する学生たち自身の満足度は高いものの,教育効果としてはまだまだだと思っています。
- グループ・ディスカッションを円滑に行わせるためには指導が不可欠ですが,その時間が十分に取れませんし,机間巡視しながら 各グループをファシリテーションしていくだけの技量が,まだ私には備わっていません。
- 時間の制約の中でプレゼンテーションまで行うべきかどうか,やる場合にもそこにどれほどの重要性をもたせるかはけっこう難しい問題で, 重視するのであればプレゼンテーションのしかたについてもきちんと指導しないと意味がありませんが,あまり時間を割くこともできず 悩みの種です。
2003年度前期、小野原氏が講義型授業の改革に踏み切った動機は、「はたして学生たちは何を学んでいるのだろうか」という疑問を 感じていたことにあります。筆者〔岩崎〕は2002年度後期より小野原氏の授業を参観することになりましたが、最初に参観した授業は 「典型的なチョーク&トーク」でありながら、90分間があっという間に過ぎていく充実感を味わわせるものでした。小野原氏は10年という時間を かけて「テンポの良い語り口調の話術と整理された板書」という1つの「安定」した授業スタイルを築いてきていました。講義改革前にもすでに 「教育改善のための学生アンケート」(期末に実施)で一定の評価(総合評定5点満点中4.0前後)を受けており、先述のようなスタイルが学生にも 受け容れられていたことがわかります。
ところが、小野原氏の自分の授業について聴いてみると、必ずしも自分の現在の授業スタイルに満足しておらず、どこをどう改善すれば 学生からの評価を高められるかに悩んでいたといいます。授業者が一生懸命に語れば語るほど学生は「理解」していないという事実が、 期末試験の答案や授業アンケートから見えていました。一定のスタイルを築いてきた小野原氏でしたが、そのスタイルにある種の〈限界〉を 感じていたところに筆者は参加観察の機会を得ることができました。「学生に自ら学んでもらいたい」、その思いから今回の小野原氏の 講義改革は始まりました。
今期の小野原氏による講義改革は2つの柱―「ワークシート&フィードバック」・「グループ・ディスカッション&プレゼンテーション」― に支えられて展開していきました。「学生1人ひとりが抱いている思いや感じを考えへと深めていくこと」をねらいとして取り組まれた今期の 講義改革について、本項では、講義の参加観察をおこなってきた筆者〔岩崎〕が4つの観点から分析をします。
2.講義改革の柱(1) 〈書く〉ことを通して〈考える〉:ワークシートの2つの機能小野原氏の改革の柱となったワークシートは、授業者による〈教え〉を否定せずに学習者の〈主体的な学び〉をつくりだすことを可能にした 1 つの授業改善ツールといえます。講義において最も考えさせたい中心課題を授業者が厳選・吟味し、「1回の授業で学生に何を考えさせ、 どこまでを要求するのか」という授業ごとの目標を明確にした上でワークシートは作成されました。授業者が一方的に話して板書するという 従来の小野原氏のスタイルと、今回のようにワークシートを介して個々の学生とやりとりをするスタイルとの決定的な違いは、「学生が 授業中に何を 考え、何を学んでいたのか」が可視化できるということでした。なかでも「予想以上に学生は誤解して学んでいる」ということ、 さらに「どこ でつまずいているのか」が見えるという点において、ワークシートを活用した意味が大きかったといえます。授業者側から見た 学生が「マス( 集団)」ではなく、「個々の学習者」として見えてきたこと、さらに学生の「つまずき」の実相が見えてきてことで、授業者が 自分の授業を反省的にとらえることにもつながっていきました。
小野原氏が開発したワークシートに類似した授業ツールは、これまでの大学の授業実践においても、たとえば藤岡完治氏(2001)の リフレクションシートや織田揮準氏(1991)の「大福帳」、さらには田中毎実氏(1997)の「何でも帳」といった形で開発されてきていますが、 小野原氏 のワークシートには次のような特徴を見出すことができます。
- 個々のノートではなく、授業者による自作のワークシートを毎回活用することによって、〈書く〉ことを通して〈考える〉という経験を すべての学生に保障することができます。考えを書くためのスペースと時間が授業時間内に充分確保されており、毎回の授業で「核」となる 中心課題をじっくり思考するための「シンキング・ワークシート」(A4版用紙の表側)が、受講前の自分の考え(今まで何を考えてきたか/ 考えてきていなかったか)を確かめる機能をもっています。「シンキング・ワークシート」に表現した「出発点」としての 自分の考えをもちながら、授業者の講義(チョーク&トーク)に臨むため、講義内容を〈聴く〉ときの視点をもつことが可能になります。
- シンキング・ワークシートの記入事項を見ながら、受講前の自分の考えと受講後の自分の考えとを比較して、その1時間の学びの 経験による変容をふり返る「リフレクション・ワークシート」(A4版用紙の裏側)を記入します。これら2つの機能を1枚の用紙に 集約することで 、学生は、ただ授業者の語る授業内容を受け取る立場ではなく、自己の学びの「出発点」を明らかにして授業に臨み、 〈考える〉という行為を 介して授業内容により積極的にかかわる立場に立つことが可能になります。
学生が記入したワークシートに対して小野原氏は1枚ずつ丁寧にコメントをつけて返却します。そのなかで特に質問や意見が集中していた 内容については次回の講義の最初で「フィードバック」をおこないます。学生が書いたものへのレスポンスに多くの時間とエネルギーをかけ、 教室に生まれた多様な考え方を授業内にフィードバックし、授業者からの意味づけをおこなうことによって、学生と授業者とのあいだだけではなく、 授業者を介した学生間の対話を生み出すことにもつながっていきました。
3.講義改革の柱(2) 〈聴く〉こと*〈語る〉ことによる学びの経験:グループ・ディスカッション今回の講義改革を支えたもう1つの柱は、複数の専攻・学部・学年から成る学生を授業者側で意図的にグルーピングしておこなった グループ・ディスカッション(&プレゼンテーション)です。グループ・ディスカッションのねらいとして小野原氏は「他者への傾聴」と 「合意形成への努力」を掲げました。
グループ・ディスカッションにしてもプレゼンテーションにしても、自分の思いや感じといったレベルの〈ことば〉を、「伝達可能」且つ 「合意形成に向けて」の〈ことば〉にするための努力が要求される〈場〉においては、〈ことば〉と格闘する、〈ことば〉を生み出そうとする 自分と格闘することが不可欠です。日常の同質集団(専攻や学年が同じで話しやすい、あるいは仲の良い顔見知り)であれば、 ニュアンスや雰囲気で理解できたり、〈ことば〉を必要としないコミュニケーションも可能ですが、異質な他者との「合意形成」に向けての コミュニケーションには必ず〈ことば〉を必要とします。学生たちはうまくことばにならなくてもどかしさを感じたり、言いよどんだりする 経験のなかで、他者の声に耳を傾けながら次第に自分の思いや感じに輪郭を与えていく経験をしていきました。
たとえば、倫理学概論III(2003年度前期)では、普段あまり話すことのない「戦争と平和」というテーマにかかわって、 「戦争」といっても同じ日本人でありながらさまざまな考え方や立場が存在するということを学生たちが身をもって知ったことは、 意図的にグルーピングされたグループ・ディスカッションならではの学びの醍醐味であったといえます。
グループ・ディスカッションでは3つの論題が取り上げられました。
- 5月20日:「戦争」に関する価値論題(是非論を問う)
- 6月3日:「戦争肯定(賛美)論」に対する〈超日常〉の思考訓練
- 7月15日:「戦争」に関する価値論題(是非論を問う)
1度目と3度目は同じく「戦争」に関する価値論題でしたが、2度目のグループ・ディスカッションにおいて「戦争を賛美するための 論拠さがし」という〈超日常〉的な問いに挑戦したことで思考の幅を広げたことには大きな意味がありました。2度目の グループ・ディスカッションとその後の戦争肯定論のレクチャーを経験したことで、戦争に対する自分の考え・立場の正当性を主張するための 論拠を見極め、反論・再反論を予想した論理の組み立てを考える場が準備されていたといえます。
小野原氏は講義の要所で倫理学的な思考の手続きを紹介していましたが、概論の授業でただ紹介されるだけでは学生たちにその重要性は 実感されにくいものです。しかし、2度目のグループ・ディスカッションでは「どういう戦争なら肯定されるのか」、「戦争をしかけた側と しかけられた側とに分けて考えてみよう」というように、問いに直面したときにいきなり答えを見つけようとするのではなく、「場合分け」 をすることの必要性に気づいたり、「問い自体を問い直す」という倫理学的な思考の手続きについても実践し始める学生たちの様子が見られました。 まさに〈実践〉を通して〈意味〉を獲得していく学びが展開されていきました。
4.授業の中の学生の声―学生にとっての〈主体的学び〉とは?
毎回のワークシートを見ていての第一印象は「授業に対する感想・質問・要望」を記入する自由記述欄への記入度が大変高いということでした。 授業アンケートにありがちな5件法のチェック回答や1・2行程度の感想で済ませるのではなく、シンキング・ワークシートと リフレクション・ワークシートともに、授業者に対する本質的を突いた質問や自分の学びの経験のふり返りが表現されていました。
今回の講義改革が目指した「学生の〈主体的な学び〉」がどのような形で生まれていたかを、2003年度の倫理学概論IIIのワークシートをもとに 4つの視点から読み解いてみたいと思います。
(1)〈考えつづける〉ということ他のいろいろな人や班の意見を聞くと、自分が用意していた考えにはない意見があったり、自分の考えを改めるかどうかを悩ませるような 意見もあって、どれだけ1人で突きつめたつもりでも、人それぞれの考えがまだまだたくさんあると思った。どれだけの時間・考えを尽くしても、 「戦争と平和」というテーマにおいて、完全な解答はありえないのではないかと思う。どんな意見にも必ず反論はあって、問題は1人ひとりの 常識・信じるものによってしか賛否は決められないと思った。完全といえる解答があるとすれば、どれだけ自分の信念に基づき、意見をまとめ、 理解し、他人に向けて堂々と意見を述べるしか方法はない、と思った。〔教育学部1年 女子学生〕
高校時代までの学びといえば、「答えが存在する」問いを「考える」経験が多かったであろう彼女にとって、「答えが出ない問い」に 直面したという本講義での学習経験は新鮮だったのでしょう。しかし、彼女は「答えが出ない」から思考を停止するということではなく、 むしろ自分の信じるところを大事にしながら、相手の信じるところも尊重しつつ、理解しあうために他者に対して発信しつづけることの重要性、 つまり〈考えつづける〉ということの意味をつかんでいます。
この講義において目指された「自分の抱いている思いや感じを考えへと深めていく」ということは、学生の〈主体的な学び〉においては 到達点ではなく、まさにこれから続く学びへの出発点であり、いくら考えてもすぐには答えの出ないような問いに対しても問いつづけ、 自分の意見に 対する反論に屈せず思考することをやめないこと、つまり〈学問する〉ことの1つの原型(モデル)をこの〈教室空間〉で 経験することができたのだといえます。
同じような経験をふり返る学生の声も見られました。
(2) 授業の全体構造におけるグループ・ディスカッションの位置答えのない問題に対して、これほどいろいろな立場から考えを深めたことはなかった。これまでは、ばくぜんと戦争はダメとしか 考えられなかったが、この授業を聞いて、ものごとに対して慎重に答えを出すようになった。〔教育学部2年 女子学生〕
とても興味のある内容でした。最初の自分の考えと、今の考えを比べると、ずいぶん深まったと思います。肯定する側の考えも受け入れつつ、 それに対する反論をさらに考えたりしていたからです。試験までにはさらに深い内容にしていきたいです。〔教育学部2年 女子学生〕
グループ・ディスカッションをはじめてやったときは少し戸惑ったが、自分の意見を整理する意味で、また相手の意見を聞いて 納得させられたことは、自分の意見を深める意味で良いものであったと思う。普段の授業があってのグループ・ディスカッションの 成功があると感じた。おもしろい、興味をひく授業をありがとうございました。自分の考えを考える時間を与えてもらえたことは自分の 財産になりました。〔教育学部2年 男子学生〕
小野原氏の講義改革で注目したい点は、単なる味付け的に「グループ・ディスカッション&プレゼンテーション」というグループ活動を 「授業者によるレクチャー(チョーク&トーク)」に付け足しただけではないというところです。このふり返りを見ると、講義全体が 学生主導の活動参加型になることが、必ずしも学生の〈主体的な学び〉を支援するわけではないことが学習者の側から語られている点は 大変興味深いところです。
小野原氏が講義改革を実現していくにあたって直面した課題は「学生を主体的な学び手として育てるために、この講義では、何が必要で、 何が不要なのか、何を残すべきなのか」という教育内容の再検討でした。従来のスタイルのときに扱っていた内容は、改革をおこなったことで 厳選せざるを得なくなりました。ワークシートに載せる中心課題を考える場合にも、全講義内容の構成を検討することが必要となってきます。 つまり、「聞かせる」だけではなく「書かせる・話させる」といった方法論のレベルでの改良にとどまるものではなく、講義として授業者が 教えるべき内容を見極め、その内容が学習者から主体的に学ばれる内容になるために内容論と方法論がともに再検討される必要があったのです。
小野原氏は、講義内容の再検討および複数の学びの回路(ワークシート&フィードバック、グループ・ディスカッション&プレゼンテーション) を準備することでこの課題に対応してきました。授業者からのレクチャーのオプションとしてグループ活動を付け足すといった平面構造ではなく、 〈聴く〉こと*〈語る〉ことによる学びの経験が授業者からのフィードバックによって意味づけられたり、自分の考えがどのようにして生まれ、 変容してきたかを、レクチャーを聴くことを通してふり返るといった授業の多元的な構造が、学生の〈主体的な学び〉を支援する上で重要な意味を もつということが見えてきます。
(3) 自分の学びの変容―〈教室外〉での学びの必要性大変難しかった。それは、授業で扱ったことがどうということではなく、それ以外の、背景となる事例や歴史観といった知識が必要であると 思ったためで、それは自分の勉強不足を感じるということでもあった。勉強しようと思う。〔行政社会学部2年 男子学生〕
戦争というものに対して、感情だけでなく、事実や歴史背景などにも基づいて少しは考えられるようになった気がした。 〔教育学部1年 女子学生〕
世界史を学んでいた自分の立場から言うと、戦争を歴史の一部としてしかみえていなかった。ましてや、戦争について肯定や否定などと、 ここまで深くは考えたことがない。これからますます深く難しくなる戦争問題、その問題について面していかなければならない世代にある自分。 このようなことを学べ、考える機会がもててよかった。〔教育学部1年 男子学生〕
グループ・ディスカッションで自分の思いや感じを〈ことば〉にして表現することを通して「考え」へと深めていく上では、当然ながら 「戦争と平和」に関しての概念内容や歴史的事実に関する知識が求められます。その点では講義内容(授業者からのレクチャーや資料、 提示された参考文献など)やワークシートに対する授業者からのフィードバックも「思考の一素材」として提供され、それも活用しながら 自分の「考え」をつくることが目指されていました。しかし、それ以外にも「自分の考えをつくる」には必要な学びがあることに学生たちが 自分で気づいていったことは注目に値するところです。
今後は、こうした声をどのように〈教室外〉での学びとつなぎ、他の学生をも巻き込んでいくことができるかということが重要な 検討課題になるでしょう。大学設置基準第21条では、1単位の取得には講義+自習で「45時間」が必要であると定められていますが、 実際のところ、そこまでの学習を1つの講義で課すことは厳しい状況にあります。しかしこうした学生のふり返りをみると、授業者が〈教室外〉 での学びも含めて講義内容をどのように組織していくかを検討することは講義改革の第2ステージに進む上でも重要になってきます。
(4)「大学らしい授業」とは?―学生が大学の授業に求めているもの講義全体をふり返っての学生の感想として「大学らしい授業」ということばが目に留まりました。学生が求めている「大学らしい授業」 とはどういうものなのでしょうか。
今までの概論に比べ、より大学の授業らしくて、とてもよかったです。受身になりがちな授業の多いなか、自分の意思を表現し、 伝える授業は、この倫理学概論IIIだけです。だからこそ、次回もぜひぜひこのような授業を期待しております。〔教育学部2年 男子学生〕
ちょっと宿題をしてくるのが大変でしたが、ちょっとしたゼミのようでとても楽しめたし、勉強になった。ただ先生の意見を聞くだけでなく、 それをもとにみんなの考えを聞けて、そういうところが一番よかったと思います。グループの意見を、その場ですぐにまとめ 発表までするというのは大変難しかったですが、時間が限られている分、まとまりがあったと思います。〔行政社会学部2年 男子学生〕
こうした声の裏側にある学生の授業観、特に導入教育段階の講義型(「概論」)授業で形成されたと思われる「大学の授業」観を みてみましょう。「マス教育(授業者1:学生多数)」、「受身」、「授業者の意見を聞くだけ(特に概論)」、「学生が感じたこと・ 思ったことを表現し伝える場がない」、「学生間につながりがない」といった点に象徴的に現れていますが、学生から見た「大学の授業」、 とりわけ「講義型授業」というのは「出席」はしているけれど「参加」はしていない、しかも「参加していないこと」も許されてしまうし、 「参加すること」を強制されることもない空間であるという授業イメージがあるようです。倫理学概論?Vの受講を通してそうした「大学の授業」 観を揺さぶられ、「大学の授業なのに、自分の考えを表現し、他者の考えを聴いて、自分の考えをつくること」ができるといった学生の 新鮮な驚きがうかがえます。「大学の授業だからこそ、答えの容易に出ない問いに対して〈考えつづける〉ことを、〈書く〉〈聴く〉〈語る〉 ことを通して実践していくことが重要である」―そのことに気づかせることが、小野原氏の講義改革の1つのねらいでもあったことを考えると、 こうした学生たちの声は大変興味深いところです。
また、学生による授業評価アンケート等で、学生の講義に対する満足度を問うことがよくありますが、学生の求めている大学の授業での 学びを再考する上でも、先述の学生たちの声は示唆的です。授業での学習経験を通して満足度を感じる、つまり「学び甲斐」があったと 感じることができるのはどのようなときでしょうか。それは、自分の学び―ワークシートに表現したものであったり、 グループ・ディスカッションで自分の思いや感じを発言したものであったりする―が、他者とのかかわりのなかで生まれてくること―とりわけ、 自分の〈ことば〉を聴いてもらえるという経験―を実感できるときであり、自分の考えをもって臨めたとき、さらにはその考えが意味づけされ、 自分自身の変容として受け止めることができたとき、なのではないでしょうか。
本講義では、ワークシート&フィードバックによって、自分の考えをもつための考える時間が提供され、授業者である小野原氏からの 意味づけがおこなわれてきました。一方で、グループ・ディスカッション&プレゼンテーションにおいては、グループ内・間での異質な 他者から自分の考えや考えるということを鍛えられたという実感を味わえた、という学生の声が多く寄せられていました。講義型授業においても、 その本質―学問することの意義やその学問特有の理論・研究方法をその道の先輩(授業者)が学生に説いて聞かせること―を骨抜きにすることなく、 〈考えつづける〉ことを主軸とした学生の〈主体的な学び〉の場を創出することが可能であること、そのことへの期待を示す学生からの声を 紹介したいと思います。
5.講義改革のプロセスに伴走してみてグループ・ディスカッションはチームワークだと思いました。今回の概論は突然内容が変わったということもあって、結構行き 当たりばったりだったような気がするので、ちゃんとした形のできたあとの講義を受けてみたいと思ったりもしました。今回の概論IIIは、 “考えさせる”という点では非常に新しい形の授業だと思った。〔教育学部2年 男子学生〕
このようにして取り組まれた講義改革のプロセスをふり返るとき、小野原氏へのインタビュー記録のなかに1つの原体験を見ることができます。 小野原氏は学生時代の被教育体験をふりかえって「自分も学生消費者の1人だった」と語っています。「授業者の話術によって授業の場を 楽しめればいい」という考えをもっていたと言います。ただ一方では、いわゆる「いい授業」というのが「簡単にわかる授業」ではないと 考えていたとも語っている点は注目したいところです。専門性をもった大学教師が最先端の研究を紹介する講義は、「内容的にはおもしろい (interesting)けれど、簡単にはわからない(complicated)」という側面があって当然だと感じていたというのです。「大学生である自分が 教授の話を、一度聴いてパッと理解できてしまうようなものが良いとは思わなかった。〈世界〉というものは複雑であり、むしろわからないことに チャレンジしていこうとする意欲を刺激してくれる授業」こそが、大学における「いい授業」であると考えていたと語っています。
こうした小野原氏の原体験のエピソードは大変印象的でした。というのも、今期の小野原氏の授業を経験した学生に共通するのは、 華やかな活動自体のおもしろさに満足するといった次元を超えて、「自分で考えたり友だちと考えたりしておもしろかったけれど、 考えるということがとても難しかった」という〈手ごたえ〉を学生自身が語っている点です。
「受動的消費者」としての学生を飽きさせないために「おもしろい」授業をおこなうといった「日本型学生消費者主義」への迎合ではなく、 大学教師として「学生に考えさせたいこと・教えなければならないこと」を、学問全体を見渡して、あるいはカリキュラム全体の中での 位置づけを見据えて取り組んだ講義改革であったことに大きな意味があると思います。注目すべきは、小野原氏の改革が「現在進行形」である ということです。2003年度前期に動き出した改革の取り組みは、その後も、学生からの要望や授業評価の結果、学生の「つまずき」の実相に 柔軟に対応しながら授業者自身による継続的な「反省的実践」のもとに漸進しています。授業の参加観察から始まった今回のコラボレーションは、 今の大学教育改革に求められている2つの点―「自前のフィールドから出発することの必要性」と「専門分野を異にする者どうしが 協働していくことの必要性」―を強く意識させるものとなりました。
〔観察者:岩崎紀子〕
(既発表論文)
岩崎紀子・小野原雅夫「講義型授業において学生の主体的学びを支援する試み ー ワークシートを活用した講義改革 ー」 (京都大学高等教育研究開発推進センター『京都大学高等教育研究』第9号,2003年)
小野原雅夫・岩崎紀子「講義型授業において学生の主体的学びを支援する試み ―グループ・ディスカッションを活用した講義改革―」 (福島大学教育学部附属教育実践総合センター『教育実践研究紀要』第46号,2004年)
小野原雅夫「『哲学/倫理学』の講義をどう変えていくか ー『教え』から『学び』への転換?ー」 (福島大学教育学部編『教育学部論集』教育・心理部門,第76号,2004年)









