大学基礎講座 −学生の視点に立った導入教育−
(1-b) 学生の学習支援・導入教育
学生の視点に立った導入教育:大学基礎講座
文責: 藤田 哲也
大学基礎講座 I (シラバス)
(京都光華女子大学 一般教養科目。2単位。1−4回生配当。2001年度前期より実施)
藤田 哲也 (京都光華女子大学文学部助教授)ほか
藤田哲也(編)『大学基礎講座 −これから大学で学ぶ人におくる「大学では教えてくれないこと」−』(北大路書房)2002年.
この授業では,大学の様々な授業で必要とされる,基礎的で一般的な「学習方法」について学んでいます。大学における学習は, 高校までの学習とはかなり異なっています。きちんと基礎となる技法を学んでいるかどうかによって,他の授業を同じように受講しても, 理解度にも差が生じ,その結果として興味や関心を持てるかどうかもかなり違ってくるはずです。この授業は,「 大学で興味深く,積極的に,楽しく学ぶ」ということを実現するための援助をすることを目的としています。
1.ノートの取り方板書をただ写すだけなどの受動的なノート・テイキングではなく,理解を深め,疑問点を発見し,また試験やレポートの直前に 読み返す価値のあるノートの取り方について指導しています。1回目の講義では大学の授業と高校までの授業の相違点について説明し, 授業内模擬授業を行い,「教科書中心の授業」 「板書中心の授業」「プリント中心の授業」の それぞれに対応したノートの取り方を指導しています。2回目には1回目の授業時にとったノートを元に具体的なアドバイスを行うとともに, ルーズリーフを用いた応用的なノートの取り方について説明を行っています。
授業内模擬授業の様子
教科書として指定されている図書や,レポート作成時に資料となる図書の読解ということを念頭に置き,1回目は論説文,2回目は 物語文を取り上げ,要約のしかたや読解のしかた について指導を行っています。単に図書に目を通すだけでは読んだことにならないことや, 論説文と物語文とでは,読み方を変えなくてはならないことを理解してもらいます。
3.図書館の利用実際にレポートを書く際などに必要となる,図書館の利用の仕方について説明しています。入学時にオリエンテーションの一環として, 大学側から図書館の利用の仕方のガイダンスも行われているのですが,前期の半ばまで実際に図書館を利用したことがないという学生が ほとんどです。そこで,図書館がいかに利用価値の高い施設であるのかであるのかの説明と, 図書の書誌情報の解説を行い,コンピュータを用いた蔵書検索の手順について指導を行っています。一度に全受講生を図書館に引率することが 難しいため,自作のビデオ教材「図書館ツアー」で概要を説明しています。
図書館ツアー
特定の教科に限らず一般的に必要とされる文章表現のスキルと,レポートの形式についての理解を深めてもらいます。1回目には 基本的・初歩的なレポートの書き方のルール原稿用紙の使い方)から始め,レポートと 作文との違いを認識してもらっています。「事実」と「意見」を区別する必要性や, 文献の適正な引用の仕方について説明しています。2回目には, レポート課題の出題意図の読み取り方について解説し, レポート作成の効率的な手順について指導しています。
そして実際に学生にレポート作成を求め,1回目のレポート課題に対しては短期間(通常2週間)で採点をして返却を行っています。 どういった基準・観点で採点したのかを解説し,学生はレポート採点基準を理解した上で,2回目のレポート課題に取り組むことになります。
授業の風景
この大学基礎講座では,毎回出席を取っています。その理由は,基礎的な学習スキルの習得ができていない学生ほど,自己評価が甘く, 「自分は大丈夫!」と高をくくって授業にこず,結果として学習スキル習得の機会を逃しがち……という傾向があるからです。出席点 (評価の50%であることをシラバス等で公表しています)や単位という外発的動機づけを利用し,とにかく教室に来る習慣を付けてもらうことから 始めています。授業を聞いてもらわなかったら,その内容に興味関心を持ってもらうこと(内発的動機づけを高めること)も不可能だからです。
そして,その出席の確認手段として,毎回の授業終了時に,その回の授業について,受講生の自己評価と教員の授業のしかたについて評価し, 質問,感想や意見などを記入して提出することを求めています。
[授業者ひと言]
大学で実施される授業評価アンケートは,授業期間の終盤頃に一度だけ行う,ということが多いのですが,当該の授業の改善につなげるという 本来の目的を考えれば,毎回実施する方が効果的です。さらには,最終回付近での実施では,過大評価された評定値になる傾向があるようですから, 実際の毎回の授業を正しく反映したものとは多少のズレが生じています。詳しいことは,藤田(2000)の論文をお読みください。
この感想用紙は,毎回の授業後に,授業者が自分の授業を振り返るのに活用されるとともに,受講生がどんな疑問や感想を持っているのかを 把握する形成的評価にも役立っています。とりわけ,この大学基礎講座のような導入教育科目では, 授業者側が丁寧にわかりやすく教えているつもりでも,受講生にとってはまだ不明な点が残っていることが多々あります。それをつぶさに 把握することで,受講生に対するフォローが可能になるだけでなく,授業者の指導の仕方の見直しにもつながります。
また,授業を受けっぱなしではなく,何らかの積極的な行為(ここでは評価や質問等の記入)を行うことは,授業に対する関与を高めることが 期待できると考えています
上記で挙げた感想用紙に書かれていた質問や感想の中から,授業者がいくつかを選択し,Q & A形式で回答したものを 「授業通信」として翌週の授業開始時に配布しています。この授業通信には「 週刊これだけは!」というタイトルをつけています。
[授業者ひと言]
この授業通信の名称「週刊これだけは!」は,「大学基礎講座」という科目が,単位を認定する正規の授業としてスタートする前年に開講していた 課外講座の名称「これだけは!講座」に由来しています。「大学生として,最低限,これだけは!身につけてほしい」という期待を込めて この授業を始めたのでした。
授業通信によって他の受講生の疑問や感想を知ることは,受講生自身が自分の理解度を客観的に把握する助けになっています。また, 大教室での講義形式の授業ではどうしても一方通行になりがちですが,授業通信によって学生と授業者の相互行為 が形成され,コミュニケーションがある程度は確立できると考えています。必ずしも自分の書いたコメントが採用されなくても, こうした手段があるということで,上記?@の感想用紙の記入も積極的になされるようになります。授業通信の持つ教育的効果・意義について 関心のある方は,別ページ「授業通信:藤のたより」をご参照ください。
この「大学基礎講座」は,この科目自体の単位を取ってもらうことが主たる目的で行っているわけではありません。従って,単に「点数」 を返却するだけではなく,提出されたレポートのどこがよくなかったのか,どこは肯定的に評価されているのかを,一人ひとりに フィードバックする必要があります。また,そのフィードバックも,他の前期科目でのレポート作成が 始まる前に行うことが重要となります(他のすべての授業のレポートを提出した後で返却しても,あまり効果はありませんよね)。
その反面,受講生数が多ければ,短期間にきめ細やかなコメントを記入して返却することは極めて困難となります。そこで,「 レポート採点表」を作成し,この採点表にチェックを入れ,個別のレポートに添付して 返却することにしています。
これによって,採点者側が,同じような注意をいちいち各個のレポートに記入する手間は省ける一方で,受講生には多くの フィードバック情報がもたらされるということが実現できます。レポート採点の合理化ということですね。また,レポート採点の基準を 公表することで,この授業自体の成績が公平になされていることを示すこともできます。
「大学基礎講座」の授業では,2回のレポート提出を求めていますが,1回目は6月下旬の授業時間内に回収し,回収直後に レポート採点表のみ配布し,まずは自己採点ができるようにしています。その後,教員の採点表を添付して7月上旬の最終回の授業時に レポートを返却し,自己採点と教員の採点を比較し,採点基準の客観化・内化を図っています。 最終回の授業では2回目のレポート課題も発表します。
[授業者ひと言]
参考までに,レポート課題についても説明しておきます。2001年度のレポートのテーマは2回とも共通で,3つのテーマ 「新しい教科書の内容3割削減について」「少年法改正をめぐって」「新しい歴史教科書をめぐって」から異なるものを2つ 選択することにしました。新聞記事の切り抜きを資料として配布し,a. それぞれのテーマについて,導入文を書く,b. 各テーマごとに, 対立する2つの立場の意見を資料からそれぞれ200字ずつで要約する,c.自分がどちらの立場に賛成なのか「意見」を書く, という内容で書いてもらいました。もちろん,図書館等で自分の資料を新たに探すことは奨励しています。400字詰め原稿用紙で4枚(1600字) 程度という字数指定をしました。手書きの場合はインク書きに限定し,ワープロの使用は奨励しました。2002年度も,求めている形式は 2001年度と同一ですが,レポートテーマは全クラス統一のものとし,1回目は「公立学校週5日制導入について」,2回目は 「夫婦別姓の法制化について」としました。
「大学基礎講座」は,新入生向けの導入教育科目ですが,大学側の意向が先にあって始めた科目ではなく,教員の側からその必要性を主張し, 始めた科目です。最初の一年目は単位を認定しない課外講座としてスタートを切りました。その年の受講生数が極めて少なかったために 翌年からは単位を認定する正規の授業にしたのですが,今度は受講生数が多すぎて,1クラス200人を超す大講義となってしまいました。 そうした反省をふまえ,3年目からは担当教員数を大幅に増員し,比較的少人数のクラス編成が可能になるようにしましたが,今度は 「共通の授業プログラムの確立」という新たな問題が発生しました。このような「大学基礎講座」の変遷や, 授業運営上の問題点・改善点などは,以下の論文で詳しく述べていますので,関心のある方はぜひご参照ください。
次の論文は,上記の本文中で触れた,毎回授業評価を行うことの意義について述べている論文です。








