宇宙科学−TIDEプロジェクト−
(1-d) 遠隔教育
京都大学とUCLAをつなぐ
文責: 村上 正行
*学内の方のみ、TIDEプロジェクトのビデオ・アーカイブをすべて こちらで見ることができます。
*動画は授業の雰囲気を伝えるものです。頁内容とのリンクは基本的にありません
宇宙科学−TIDEプロジェクト−
(京都大学全学共通科目。2単位。1−4回生配当。1999年度後期実施)
松本 紘 (京都大学宙空電波科学研究センター)
マハ・アブダーラ (カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
自作プリント(英語)
*次回の授業内容が1週間前にホームページにのせられ、学生たちはそれを印刷して読んで授業に来ることが求められた。
京都大学、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、NTTの共同プロジェクトとして、1999年秋から TIDE(Trans-Pacific Interactive Distance Education) Projectを実施しています。京都大学とUCLAをATM回線を用いて結び、 映像・音声を配信することによって、同期的で双方向なインタラクションが可能な遠隔講義を行っています。現在、1999年秋から 2002年秋までで、合計8つの講義が開講されています。
- 1999年後期 「宇宙科学」「物理学入門」
- 2000年前期 「Advanced Asia Media Systems」
- 2000年後期 「英語 II」
- 2001年前期 「日本の経済学」
- 2001年後期 「遺伝子・細胞から見た現代生物学」
- 2002年前期 「遺伝子・細胞から見た現代生物学」
- 2002年後期 「情報メディア利用教育と異文化交流」
講義は英語で行われ、10回の授業を、松本教授とアブダーラ教授が交代で5回ずつ行いました。教材は主にWebページとして準備され、 授業中は講師から学生への発問も多数行われました。
| 回数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| 日時 | 10/6 | 10/13 | 10/20 | 10/27 | 11/5 | 11/10 | 11/17 | 11/24 | 12/1 | 12/8 |
| 講師 | UCLA | UCLA | 京大 | 京大 | UCLA | UCLA | UCLA (at 京大) |
京大 | 京大 | 京大& UCLA |
また、京大の学生とUCLAの学生がそれぞれ3人ずつ、計6人程度のグループを作り、グループ・アサインメントを行い、それを最後の授業の 課題としました。学生同士は、授業時間以外で、メールなどで連絡を取って作業を行いました。
講義終了後に松本教授、アブダーラ教授にインタビューを行いました。その結果、明らかになったことは「講師は、学生の様子を 常にしっかりと把握しながら授業を行おうとしている」ことです。2つの観点から、この点について述べたいと思います。
1つは教室構造の問題、特に講師用に準備されるスクリーンに関する問題です。UCLA側の教室では、京大の学生の様子を写した スクリーンは学生用のみならず、講師用に当初から準備されていました(写真1)。しかしながら、京大の教室では、当初、UCLAの学生の 様子を映したスクリーンは学生用として考えられており、写真2の左スクリーンに示すように、講師の背後にのみ設置されていました。
写真1(左):UCLAの講義室/写真2(右):京都大学の講義室
そのため、講師はUCLAの様子を知るためには後ろを振り返らねばならず、京大とUCLAの学生の様子を同時に把握することができない 状態でした。この点について、松本教授は以下のように述べています。
松本教授:
「講義する立場でいうとね、日本の学生に本当は話をちゃんとしたいんです。で、向こうにも聞いてもらいたいわけです。 ところが向こうにしゃべろうと思ったら、あの、向こうの顔見ないかんわけね。顔見えないんですよね。向こう向かないといけないでしょ。 向こう向くと日本の学生に背中向けることになるでしょ。」
(3回目:1999年10月20日)
この問題に対処するために、写真3のような小型スクリーンが4回目の講義から教壇の上に設置されました。これによって、 視線位置に多少問題はあるものの、同一方向を見ることで双方の学生を把握できるようになり、講師のストレスは多少なりとも 減少したといえるでしょう。
写真3 小型スクリーン
松本教授:
「モニターをここに置いてもらったわけね。これだと目線はちょっと違うけど、ま、大体一緒やから、これで大体見えたからね。 同じ方向向いてしゃべれたから。(後略)」
(4回目:1999年10月27日)
もう1点は、講義における文化的背景の差異によって、講師や学生の講義に対する意識が異なってくるという点です。 今回のインタビュー調査からは、アブダーラ教授が日本の学生の状況を把握できないことからくるストレスを感じていたことが 明らかとなりました。こうした問題の原因として、日米の学生の授業への反応の仕方の違いが考えられます。参与観察の結果からは、 特に質疑応答の点において、京大生は質問をしない傾向がありますが、UCLA学生は活発に質問する傾向があることが明らかとなっています。
松本教授は、海外での講義経験が豊富であり、UCLA学生の反応はある程度予測できた、と語っており、UCLAの学生の反応に対するストレスは 感じていませんでした。しかし、アブダーラ教授にとっては、京大生に対して講義をするのは初めての経験であり、京大生の目に見える 反応がUCLA学生と比較しても格段に少ないことで、学生の様子を把握できずに非常にストレスを感じたといえます。この点に関して、 アブダーラ教授は以下のように述べています。
アブダーラ教授:
「京大生がこの授業をどの程度理解しているのか、どのように感じているのか分からない。UCLAの学生は分かるのだけれど。 従来の講義と比べて、いろんなことに集中しないといけないので大変です。だんだん慣れてくると信じてやっています。実際、 先週と比べて楽になりました。とにかく、京大の学生の意見を聞きたいです。」
(2回目:1999年10月13日)
この後も、京大の学生の意見を聞きたいと語っており、授業後に学生に感想をメールで送るように言ったり、 アンケートの結果を送付してほしいと伝えてきたりしました。
アブダーラ教授が来日して京大で講義を行った7回目の授業終了後のインタビューでは以下のように語っています。
Abdalla教授:
「京都での講義はとても楽しかったです。実際に京大の学生に会えたのはとてもうれしかった。非常に熱心に講義を受けていたし。(後略)」
(7回目:1999年11月17日)
実際に対面で講義を行い、京大生と対話を重ねたことによって、目に見える反応が少ないのは、決して理解できていなかったり、 講義に興味がなかったりするためではない、などといった京大生の様子を把握できるようになってきたのではないかと思われます。
村上正行・田口真奈・溝上慎一 2001 日米間遠隔一斉講義における講師・受講生の評価変容の分析. 日本教育工学雑誌, 25 (3), 199-206
Mizokami, S., Taguchi, M., Murakami, M., Levis, M. R. 2000 Teaching on the interactive distance lecture between universities: Through the UCLA and Kyoto University joint-project. Annual Report of Center for Information and Multimedia Studies (Kyoto University)(京都大学総合情報メディアセンター年報), 3, 280-288.





